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美沙希は、気を失った彼のまつ毛を全部、むしった。
親指と人差し指で摘まむようにして、ほとんど一本残らず抜いた。
まつ毛を抜けば、人は目が開けられないと聞いたことがある。殺すわけにもいかず、何より彼女が一番に思い付いたのはこの方法だったのだ。
まつ毛を抜かれた黒いジャンバーの男は、マスクをしたまま薄暗い路地に横たわっている。
あと、5分で諒弥との待ち合わせの時間である。少し小走りで路地を抜け、公園に向かった。
諒弥は、もう着いていた。美沙希は、息切れしながら諒弥に駆け寄った。
「お待たせー」
「は、めっちゃ息切れしてんじゃん」
「ごめんねー、待った?」
「いやいや今、来たとこ。寝坊?」
「そんなとこかな」と美沙希は、微笑む。
そっかそっかと諒弥は言うと、美沙希の手を取り「行こっか」と歩き出した。
美沙希は、何事も無かったかのようにデートを楽しんだ。まつ毛を失った男は、翌日のニュースで報道された。犯罪グループのメンバーだったようだ。
美沙希は、諒弥とホテルに泊まり翌朝、テレビでそのニュースを観ていた。
「えー、こわーい」などと言いながら、ベッドの上で諒弥の腕に抱かれポテトスナックをポリポリと噛む。
【終】
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