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カーテンの隙間から覗く夜の空の色は1日が終わろうとする合図。
それを見ると、あたしはほっとする。
暗い空の色、空気をこうやって感じられるのは、今日を無事に生き抜いたからだ。
ほら、白くて綺麗な月も、柔らかな光でもって、それを祝ってくれている。気がした。
他の誰かにとっては当たり前のこと。
でもそれは、あたしにとっては当たり前ではないこと。
壊れかけの心臓を授かったあたしには。
学校に通えていること。
こうやって夜空を見れること。
ふつうに、生きていけていること。そのすべてが奇跡で、いつ終わってしまうかわからないものなのだ。
「麗花。もう遅いから寝なさい」
「はーい、先生」
もう少しだけ、窓の外を眺めていたかったけれど、先生に促されて、布団に潜った。
すぐに寝付くことはできずに、頭の中でぐるぐると、『明日のたのしみ』が浮かんでは消える。
楽しい、わくわくした気持ち。
それと同時に、ちいさな、ちいさな不安が、あたしの胸を締め付けた。
(一年しか、ないんだっけ。そのなかで…)
あと何回、こういう夜を過ごせるだろうか。
笑顔で学校に行けるだろうか。
1日を、生き抜けるだろうか?
自分に残された時間を想像すると、暗くなってしまいそうで、切り替えてしまおうと大きく寝返りを打った。
どのくらいだとしたって、することはおんなじだ。
ただただあたしらしく、軽く毎日を、ハッピーに!
布団を頭まですっぽりと被る。
この呼吸が、心臓が、動きを止めませんように。
明日を、無事に迎えられますように。
______その明日に、短い人生でも無二の出会いがあることを、あたしは夢にも思っていなかった。
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