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あっけらかんと言い放つお姉さまに、さすがに呆然とするばかり。確かにおっしゃる通りなのでしょう。お姉さまならどんな手段を使っても、自分の想いを貫くに違いない。そう納得するだけの強さを持っていますから。
愛するひとの隣に立ち、両親に向かって彼の素晴らしさを語るお姉さまは、本当に輝いていました。その光は今も健在です。以前よりも雰囲気が穏やかで柔らかなものになったように思うのは、なぜなのでしょうか。恋というのは、熟成することでより深い愛に変わっていくのかもしれません。
「大丈夫よ。素直になればいいだけなの。恋愛は駆け引きが大事だって言うひともいるけれど、恋愛をゲームとして楽しむ特殊なひと以外は素直になるべきなのよ」
姉の言葉に小さく苦笑しました。いくら素直になったところで、私のような人間にはやはり厳しすぎると思ってしまったからです。愛されたいと願うと同時に思い出すのは、両親の普段の言葉。
『あなたは、ひとの三倍もの時間をかけてやっと普通にしかなれないの。だから他のひとが遊んでいる間に、お父さまのように努力だけはしなさい』
『お前はちょっと要領が悪いからね。お母さまを見習って、せめて愛嬌だけは忘れないようにしなさい』
娘を思いやっているように見えて、ごく自然とお互いを貶めているようなちくちくとした言葉の数々。両親にさえ愛されていない。そういじけたくなる卑屈な私を、大切にしてくれる誰かを見つけるなんて無理に決まっています。
いっそ親が決めた婚約者がいたならば、最初から相手に期待することなく、粛々と求められる女主人の役目をこなすだけで良いでしょうに。それこそ恋など、物語の中にある絵空事だと笑い飛ばせたことでしょう。
自由な恋愛が認められたことで、私は誰かに好きになってもらわなければいけなくなってしまいました。だからこそ最初から諦めている私は、こっそりとみんなの恋の味見をさせてもらっているのです。
「ヘーゼル、どうしたの?」
「私にはできそうにありません……」
「何を言っているの?」
お姉さまの瞳に映る自分を見たくなくて下を向きました。
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