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「僕が失礼なことをしたと言うのなら謝る。だから、君が怒っている理由を聞かせてくれないか」  王立学園の教室内には、もう私たち以外ひとっこひとり見当たりません。明日からは待ちに待った長期休暇。みんな自領へと戻るために寮の自室の片付けに大忙しなのです。  そんな中、同級生であるダヴィさまが、少し焦ったような顔で私の手を掴んできました。ひんやりとしたてのひらに、思わず胸が高鳴ります。ああ、いけません。彼にはすでに心に決めたかたがいらっしゃるというのに。動揺を押し隠して、令嬢らしく微笑んでみました。 「私がぼんやりしていたせいで、ダヴィさまにご迷惑をおかけしてしまいました。これからは、いち同級生として節度を持った形で対応させていただきます」  今後、必要以上に関わりを持つつもりはない。言外に匂わせれば、ダヴィさまが眉を寄せました。渋いお顔をなさっていても、なんと美しいのでしょう。 「ヘーゼル、聞いてくれ。僕は!」 「申し訳ありません。そろそろ実家に向かうために準備をしなければなりませんので」  そっと手を振りほどき、後ろも見ないままその場をあとにしました。  ダヴィさまの反応は当然のことでしょう。昨日までは友人として親しく過ごしてきたのです。それなのに長期休暇が明日から始まるというときになって突然、「あなたとは文通もしないし、領地に遊びに行くこともない。むしろ、今後はどうしても必要なとき以外は話しかけないでくれ」と遠回しに伝えられたら、疑問に思うほうが普通です。  彼が驚き、理由を聞きたがったにも関わらず拒絶したのは、すべて私のわがままだったから。  恋などというのは、自分がするものではない。誰かの用意してくれた甘い蜜のおこぼれを味見するだけで十分。そんなことを本気で考えてた私が愚かだったのです。
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