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「それにね君には、恋バナなら聞いてくれるっていうか、それ以外の話は聞いてくれないって噂があって。君、本当に気付いていなかったのかい」
「そこまで限定的な話題は求めていませんが。ただどうせなら、ハッピーな話題を聞きたいからそういう風に強めに言っているだけで」
まあ確かに「恋愛相談をされても毎回的外れなことを言ってしまうから、相談はしないで。役に立たないどころか、足を引っ張ってしまいそう。でも代わりに好きなひとの好きな部分とか、恋人の素敵なところならどれだけだって聞きたいわ」みたいなことは言ったかもしれません。
「だから、僕の惚気は全部君のことだったんだ」
「……本当ですか?」
「ああ、今さら言っても言い訳じみているだけど。いつか君に気がついてもらえたらいいと思っていた。でも言葉ではどうしても最後の一歩を踏み出せなかったから、君の好きなものを作ったんだ」
「それって……」
「ここで新しくオープンする今人気の菓子店というのは、僕が支援している店なんだよ。自領で成功したから、王都よりも先にここに支店を作ったんだ」
お姉さま、そんな話、全然聞いていませんけれど! もしかしたら、お姉さまの方が私たちの事情に詳しかったりするのではないでしょうか。恥ずかしさで顔が真っ赤になるのがわかりました。
「傷つけるつもりなんて、本当になかったんだ。すまない」
「許さない……なんて言うはずないでしょう?」
頭を下げるダヴィさまを見ていると、なんだかおかしくなってきてしまいました。恋は甘くて苦くて、でも一緒に口に含めば止まらないくらい美味しくて。
「本当に? やっぱり嫌だなんて言わないかい?」
「もちろんです。私たち、うんと遠回りしてしまったんですね。私のほうこそ、傷つけてしまってごめんなさい。これから、また前みたいに仲良くしてくださいますか?」
「前みたい、は嫌かな。前よりもずっと君のことを知りたい。君と一緒にいたいよ」
突然距離を詰めてきたダヴィさまは、プリンよりも甘い言葉で私に愛を囁いてきます。現金なもので、あの時は胸がえぐられるばかりだった言葉が、私の中に満ちていくのがわかります。お姉さま、幸せってこうやって感じるものだったのですね。
誰かの恋バナを聞くのはとても楽しいこと。でもそれを本当に味わうことができるのは、自分が落ちた恋の味を知ってからこそなのかもしれません。
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