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 昔から、恋をしているひとを見ているのが好きでした。きらきらとした瞳はどんな宝石よりも美しく、いつまで見ていても飽きません。 『あの方のことを考えると、夜も眠れませんの。彼にふさわしい淑女になれるように頑張りますわ!』 『明日は彼女の誕生日なんだ。彼女のために用意したプレゼントを渡すつもりでいる。そのために実は自分で鉱山に行ってきたところでね。自領のことを勉強する良いきっかけにもなったよ』 『わたしたち、卒業したら海の見える街に住む予定なのよ。お互いを支え合う夫婦になりたいと思っているわ』  甘酸っぱい片思いに、胸が高鳴る両思い。これ以上ないくらい濃厚な相思相愛。幸せそうな顔で紡がれる惚気というのは、大好物のプリンにだって敵わないとろけるような甘さを持っています。  他人の恋バナを嬉々として聞くのなら、好きなひとなり恋人なりを作って自分が惚気たらいいのに。そんな忠告を受けることもありますが、自分の恋愛なんて必要ないのです。  自分で恋なんかしてみてごらんなさい。甘いどころか苦くて苦しくて、辛い思いばかりすることになるに決まっているのですから。 『僕の好きなひとはね、いつもにこにことみんなの話を聞いているんだ。誰かの悪口や陰口を言うところなんて見たことがない。とても優しい子なんだよ』 『甘いものがとっても好きらしくて。僕は彼女に出会うまではそれほど甘いものには興味がなかったんだけれど、ずいぶん詳しくなってしまったよ。彼女のことを考えると、実家の農業や酪農への政策ももっとしっかり考えようという気持ちが湧いてくるんだ。好きなひとができるまで気がつかなかったのかと言われたらその通りだから、ちょっと恥ずかしいんだけれどね』  最初は、他の友人たちと同様に話を聞いているだけで幸せだったのです。いつからでしょうか。ダヴィさまのお話を聞くと胸が痛むようになったのは。彼にここまで想われるお相手が羨ましいと妬むようになったのは。  女性に好まれる甘味の市場調査を行いながら、領地での商業、生産業の発展について考えるダヴィさまはとても素敵なのです。熱心に図書室で調べ物をする姿をつい追いかけてしまいます。  用事もないのに図書室に出入りするせいで、「無類の本好き」だと思われてしまうありさま。しかも申し訳ないと思いながら、都合の良い言い訳ができたと喜んでしまう自分がいます。  いっそさっさと相思相愛のカップルになってくださればこちらも諦めがつくというのに、ダヴィさまの好きなひとはいまだに彼の好意に気付いてくれないというではありませんか。  ――そんなかたなどやめて、いっそ私と――  そうお伝えしたいと何度思ったことでしょう。けれど、その一言がどうしても言えません。  ダヴィさまのお好きな方は、誰かの悪口や陰口など絶対に言わないお方。恋バナを聞きたいと言っておきながら、相手を好きになってしまうような恥知らずとは雲泥の差です。  もうこれ以上、耐えられない。そこで私は長期休暇に入る直前に、絶交宣言に近いものをお伝えしたのでした。  私と彼の実家は随分と離れています。学校が始まるまでお会いすることもないでしょう。その間に、彼への気持ちを忘れてしまえば良いだけなのです。  それなのにどうして涙が止まらないのでしょうか。
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