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「さあ、このお話はもうおしまい。おやつにしましょうか? あなたの大好きなプリンを用意してあるの」
「もう、お姉さま。私をいつまでも小さい子ども扱いして。プリンがあればすぐにご機嫌になると思っていませんか」
「あら、違うの?」
「そうですけれど!」
用意されていたのは、私の理想をそのまま形にしたような素敵なプリンでした。
「これは我が家の料理人が?」
「いいえ。ここ最近人気の出てきたとある有名菓子店があるのだけれど、そこがこちらの領にも出店するということでうちの商会に挨拶にこられたの。我が家を通しての販売だから、この辺りではまだ出回っていないのよ」
スプーンを入れれば、ふるふると揺れる黄金色のプリン。一口食べると、夢心地のお味がします。
「素晴らしいです!」
「あなたのためのプリンなんだもの、無理を言って多めに用意してもらったわ」
「このとろけるなめらかさ。そして、カラメルが別添えというのが最高ですね」
カラメルが苦手な私は、思わず小躍りしてしまいました。甘味を台無しにする苦味なんて言語道断なのです。なんてわかっているお店なのでしょう。つい私のために用意されたお店のように思ってしまうほどで、開店が待ち遠しくなってしまいます。
「ねえ、せっかくだから今日はカラメルもかけてみない? 両親のことにけりがついたのだから、新しいことに挑戦してみるといいわ」
お姉さまの言葉に、ついしかめっ面になってしまいました。どうしてわざわざ嫌いな苦い味を食べなければならないのでしょうか。
「ひとが嫌がっているものを無理に勧めるのはよくありません」
「そうね、わかっているわ。でもこのお店のものは特別だから。良かったら一口だけ食べてみてちょうだいな」
お姉さまは、普段私に向かってこんな押しつけがましいことを言いません。たっぷりとカラメルがかけられたお姉さまのお皿のプリン。それを目の前にずずいっと持ってこられてしまい、しばしプリンとにらめっこをしますが、どうやらお姉さまは見逃してくれないようです。仕方なしになけなしの勇気をかき集めて、カラメルをかけたプリンを口に運んでみました。
「……美味しい」
ほんのりと広がる苦み……けれどそれはかつて食べたときとは違って、プリンの甘さを引き立てるものになっていました。このプリンは、たくさんの愛情と願いが込められて形作られているのでしょう。ダヴィさまが自領の酪農や養鶏に力を入れていらっしゃるように。プリンを作るひとと食べるひと、どちらもが笑顔になれるように。
「ね、意外と大丈夫でしょう。あなたも大人になったのよ。不味い、苦いと思って毛嫌いしていても、いつの間にか食べられるようになっていたり、美味しく感じるようになっていたりするの」
「それはつまり……、恋愛も同じだと?」
「ええ。お父さまやお母さまたちみたいに拗れてしまうと、口にできるのは苦くて不味いどうしようもない部分ばかりになってしまうけれど。恋は、甘いだけではないわ。辛いことも、苦しいこともある。でもそれを全部ひっくるめて幸せだと思えるものなのよ」
それは、きっとお姉さま自身の経験でもあるのでしょう。目の前で揺れるカラメルソースの小瓶。思いきって、自分のプリンにもかけてみました。ダヴィさまのことを想いながら、スプーンですくいあげます。今頃あの方は、どこで何をしていらっしゃるのでしょうか。
「……今さらでしょうけれど、お慕いしていたと伝えてみようと思います」
「ええ、それがいいわね」
私の想いは、私が一番大切にしてあげなくてはいけませんから。例え、ダヴィさまに届かないものなのだとしても。
口の中で広がる甘いプリンとほんのりと香ばしいカラメルのハーモニーを味わいながら、私はまたお姉さまの前でしばらく泣き続けたのでした。
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