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「ヘーゼル。君は甘いものが好きだったよね。特にプリンが大好物だったと思うんだけれど、今度一緒に食べにいかないかい。お姉さんに聞いたかと思うけれど、今度ここに新しくできるお勧めの店があるんだ」
「……そういうお誘いは、好きなかたにおっしゃってくださいませ」
ダヴィさまのお誘いは、まるでデートの申し込みのよう。わざわざ友人の実家にまでやって来て言うべきことなのでしょうか。しかも複数の友人を誘うならばともかく、私だけがのこのことついていくわけにはいきません。私が自分の中で言い訳を重ねていると……。
「だから、君を誘っているんじゃないか」
「え?」
「僕の好きなひとは、ヘーゼル、君だよ」
ダヴィさまの言葉に、思わず目を見開いてしまいました。それでも通常モードにぎりぎり届かない視界の狭さですが。
「やっぱり伝わっていなかったんだな。僕は何回か君に告白したことがあるんだけれど」
「え、全然記憶にありませんが。……まさか、貴族らしい比喩暗喩、故事や文学作品になぞらえた言い回しなどをなさったのではありませんか?」
「もちろんそうだよ。やっぱりわかっていなかったんだね」
「申し訳ありません。男女のことについては、その、とても疎くて……。はっきりと『君が好きだ。結婚してほしい』くらい言ってもらわないと、私、わかりません」
貴族令嬢にあるまじき発言に、ダヴィさまが苦笑していらっしゃいます。お姉さまには家庭教師からその手のことを教わったそうなのですが、私は一切遠ざけられて育ってきました。もしかしたらお母さまは、私が女になることが許せなかったのかもしれません。
「最初はね、こちらのメンツを立てて気がつかない形でスルーしているのかなとも思ったんだ。もともと告白が迂遠な言い回しになっているのも、断られた際に角が立たないようにするためだったからね」
「そうなんですね」
「でもそれにしては、あまりにも君の態度が普通すぎてね。これは告白が伝わっていないなとわかったんだ」
まったくもって恥ずかしい状態に、穴があったら入りたいです。もしかしたら、私以外のクラスメイトはダヴィさまのおしゃべりの意味を全部理解していたのではないでしょうか。どうして誰も教えてくれないのでしょう! つい八つ当たりしたくなってしまいました。
「でも面と向かって好きなだけ、君の素敵なところを伝えることができたから、それはそれで楽しかったんだ。はっきり告白して振られたあげく、隣にいられなくなるよりもマシだしね」
ダヴィさまでさえ、告白するときに怖いと思っていたなんて。なんでもできる彼の意外な姿に、なんだか親近感がわいてきます。
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