卵とハンマー

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「ここからが培養室、通称エッグプラント(卵畑)です」 アタッシュケースを持ち白衣を着た研究員が、カードキーをリーダーに通しながら言った。 「エッグプラントだって?」 男がふんと鼻を鳴らして言った。 (注 エッグプラントは『茄子(なす)』のこと) ドアが開いた。 培養室は少し気圧が高くなっていて、男の前髪がフッと揺らいだ。 男の名はW. サルガッソー・ジュニア、『サルガッソー・コーポレーション』の若き会長である。 男の後に、少し離れてその妻と息子がいた。 培養室に入ると真っ直ぐ廊下があり、その両側は透明アクリルで仕切られていた。 アクリル板の向こうには、1フィートよりやや大きい白い卵のような物が、ずらりと並んでいた。 「これが全部『卵』なのか?」 サルガッソー氏が研究員に尋ねた。 「ええ、すべて人工子宮、通称『卵』です」 研究員は歩きながら答えた。 「こんなにたくさん・・・」と、サルガッソー氏の妻が言うと、研究員が訂正した。 「ここに並んでいるのはケースだけ、中はまだ(から)です。この奥に、実際に培養されているヒューマンクローンがあります」
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