僕はよく似た後ろ姿に誘われる

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僕はよく似た後ろ姿に誘われる

 ――とりあえず来てみたけど、ここじゃなさそうだな。  商店街のベンチから通りを行き交う人を眺めていた僕は、早くも空振りの気配を感じ始めていた。  ――まあ、幽霊がこんな普通の待ち合わせ場所にふらっと来たりはしないか。  僕は自分がありきたりの場所しか思いつかないことにがっかりしつつ、じゃあ杏沙が指定しそうな場所はどこかと聞かれたらやはりわからないのだった。  僕がその場を離れるタイミングを失いぐずっていると、突然、すぐ近くで女の子の声が響いた。 「――マサキ!」  驚いて声のした方を向くと、杏沙とはまったく似ていない小柄な女の子がスポーツマンタイプの少年に飛びついている姿が目に入った。  ――いいなあ、マサキ君。  僕がぼやきを漏らしつつ再び通りに視線を戻した、その時だった。不意に僕の心臓が小さく跳ね、視線が商店街の出口に向かってゆく女の子の背に釘付けになった。  ――まさか?  僕はベンチから弾かれたように立ちあがると、女の子の背中を追い始めた。  ――七森……七森!  僕は声に出して呼びかける勇気もないまま、女の子の背中をひたすら追い続けた。  ――お願いだ、少しでもいいから振り向いてくれ。もし別人でも落ち込んだりしないから。  しばらくすると女の子は杏沙がいつも乗るバス停の前を通り過ぎ、『不確定時空』の発生した公園の方向へと向かい始めた。もしかしてあそこでもう一度、何かが起きれば杏沙の「意識」も元に戻るんじゃないだろうか?  そんなことを期待しつつ女の子の背中を追っていると、突然、誰かが僕の襟首を掴み有無を言わせぬ力で後ろに引いた。 「あんた、なんだってうちのマリを追い回すんだ」 「えっ?」  驚いて振り向いた僕は、予想外の光景に目を見はった。僕の後ろに立っていたのはパーマをかけた見覚えのない大男だった。 「あの子はうちの看板娘なんだ。休みの日でのんびりしてるところをつけ回すなんて、どういう魂胆なんだ?」  大男がそう言って僕を小突くと、先を歩いていた女の子がいきなり足を止めて振り返った。  ――あっ、別人だ。 「ちょっとアキラ、なにやってんの?」  マリと言うらしい女の子は僕の前に早足で近づいてくると、大男にそう声をかけた。  確かに背格好は杏沙と似てないこともないが、よく見ると女の子は杏沙より三、四歳は年上に見えた。 「このガキがお前の後をつけていたんだよ」  大男はそう言って僕の襟首を放すと、短く舌打ちをした。 「あ、あの、知ってる子に似てたもんで……」 「知ってる子? ……ふうん。その子、いくつ?」 「十四歳、僕と同じ年です」 「ガールフレンド?それとも片思い?」  初対面なのにずけずけと物を尋ねてくるマリに面喰いながら、僕は「ううん、それは……」と口ごもった。 「ははあ、その様子だと片思いだね。――でもさ、黙って後をつけるなんて逆に嫌ってくれって言ってるようなもんだよ?」 「それはそうかもしれませんけど……急にいなくなちゃったんです」 「いなくなった?」  マリは目をぱちぱちさせると「なんだか気になる話だね。人違いされたついでにちょっと話を聞かせてもらっていいかな」と言った。  マリはきょとんとしている大男を尻目に、僕に好奇心たっぷりの大きな目を向けた。
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