僕は原色の魔物にふたたび出会う

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僕は原色の魔物にふたたび出会う

 昼下がりの公園では、年齢のばらばらな人たちが思い思いの時を過ごしていた。  中には犬を連れた人もいたが、あの時の犬とは違うようだった。  ――おっちょこちょいな犬が僕に似てるだなんて、ひどいよな。  僕はベンチに腰かけてどこかにいるであろう杏沙に「文句を言わせてくれ、七森」とつぶやいた。色んなことを言いっ放しで逃げちまうなんてそれはないだろう。  僕がこみ上げてくるものに耐えかね、ベンチの上で鼻をすすったその時だった。 「あれっ、真咲さんのお兄さんじゃないですか」  突然、頭上から降ってきた声にはっとした僕は、おずおずと顔を上げた。 「明人君……」  見覚えのある少年の顔が目に入った途端、僕は急に恥ずかしくなった。  ――しまった、泣いてるところを見られたんじゃないだろうな。  僕がうろたえていると明人は「そう言えば真咲さんからお兄さんが浮かない様子だったって聞いたんですけど、大丈夫ですか?」と言った。 「うん、まあちょっと気がかりなことがあってさ」 「気がかりな事?」  明人が不思議そうに首を傾げた、その時だった。  常夜灯の周りにちかちかと瞬く細かい光の粒が現れたかと思うと、みるみるうちに原色の混ざりあった光の渦へ成長した。 「あっ……なんだ、これっ」  明人は背後の異変に気づくと振り返って大声を上げた。  ――『不確定時空』だ!  僕は咄嗟に首のネックレスを外すと「明人君、これを!」と叫びながら明人の首にかけた。 「……お兄さん、これは?」  僕の唐突な行動にとまどっている明人に、僕は「明人君、舞彩に伝えてくれないか。もし無事だったら晩御飯までに帰るって」と言った。 「は……はい」 「ありがとう。僕が無事に戻れたら、家に遊びに来てくれ。それから今度SF映画の……」  僕が明人へのメッセージを言い終わらないうちに、『不確定時空』は僕の視界を埋め尽くしそのまま渦の中心へと呑みこんでいった。
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