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僕は自分史上最大のピンチに直面する
――思いきってリビングを覗いてみるか、それとも……
僕が僕の身体を動かしている者の正体に思いをはせた、その時だった。
ふと壁のカレンダーが目に入り、僕はなんだかおかしいぞと首を傾げた。確か今、僕の部屋のカレンダーは『2001年宇宙の旅』のスチールのはずだ。だが今、壁に貼られているカレンダーの絵は『猿の惑星』なのだった。
このカレンダーは六枚つづりで二ヵ月に一度、めくるタイプの物だ。『猿の惑星』は五月と六月の物で、そこから既に二回ほどはがしている。
――なんでまた、一度はがした物を?
この絵の下が気になった僕は、なんとかめくれないものかと両手を上下に動かした。
幽霊でも必死で手を動かせば、軽いものならいくらか「動く」こともあり得るのだ。
僕がカレンダーの前で霊と化した手を必死で動かすと、その思いが天に届いたのかカレンダーの下から次の絵柄がわずかに見えた。
――なんだこれ、まだ破ってないじゃないか!
見えたのは下の方の数センチほどだったが、僕には何のスチールだかすぐにわかった。『ソイレント・グリーン』だ。
ということは、このカレンダーは五月と六月の絵から先を破っていないのだ。
――僕には確かにカレンダーを破った記憶がある。なのにそれが元に戻っている。……なぜだ?
そこまで考えた時、僕はふとカレンダーの一点に記されたマジックの書きこみに気づいた。書きこんだのはもちろん、僕だ。
記されていたのは五月の二週目と四週目でで内容は「片瀬に出演交渉」「この週から撮影開始」という文章だった。
――おかしいぞ。このあと、僕は片瀬に断られて撮影開始のところにバツをつけたはずだ。
五月の四週目に自分でつけた印が無い……この事実が意味するところは一つ、つまりこの部屋のカレンダーはまだ、五月の四週目を迎えていないのだ。
――まさか、そんな!
僕は愕然とした。今僕がいる「ここ」は五月。『アップデーター』が侵略を開始する前、僕が杏沙と出会う前の世界なのだ。
――身体を十一月に残して、意識だけが半年も前の五月に飛ばされるなんて……
僕は「僕」が笑顔で動き回っていた理由を悟った。あれは「五月の僕」だったのだ。
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