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僕は幽霊にとって最大の宝を見つける
――ああ、懐かしいな。でも……
僕は五瀬さんのお屋敷の前に立つと、五月の日差しの中でなぜか切ない気持ちが溢れてくるのを感じた。
――何度もここへ来た。そのたびに僕と杏沙は五瀬さんや四家さんに助けられた。
あの時よりもっと前の――半年分若い五瀬さんに、僕はどうやってコンタクトしたらいいんだろう?
僕は少しためらった後、思いきって玄関の扉に飛び込んでいった。生身の人間なら不法侵入だが、幽霊ということで許してもらうしかない。
僕はこの屋敷の主である五瀬さんがもっともいそうな部屋――地下の実験室へと直行した。
「ごめんください、五瀬さん」
僕は実験室の扉の前で一応、ノックをする形に手を動かすと歩くような動きで部屋の中に入った。
「……えっ?」
実験室に足を(幽霊だからないけど)踏みいれた僕は、見覚えのある実験台を見た瞬間、思わず声を(幽霊だから聞こえないけど)上げていた。
実験台の上にあったのは、円盤型の台に乗っている透明な円筒容器だった。
円筒の乗っている台はチューブで床に置いてある別な装置と繋がっており、装置からは先端に掃除機のようなノズルのついた別なチューブが伸びていた。
そして――透明な円筒容器の中には、ゼリーのような緑色の物体がでろんと弾力のない姿で封じ込められていた。
――僕らが訪ねる二ヵ月も前に、五瀬さんはもう『ジェル』を完成させてたんだ。
僕は驚きのあまりしばらく緑色の物体を凝視した。『ジェル』とは幽霊となった人間、つまり意識を宿らせることで「幽霊」から「生命」へと昇格させる物質だ。
やった、これにうまく乗り移ることができれば周りに見える形で行動することができる。……それにしても、五瀬さんはどこにいるのだろう。
僕は実験室に五瀬さんの姿が無いことに気づくと、実験室のさらに奥にある工房に向かった。
「五瀬さーん」
僕は空気を震わせることができない「幽霊の声」で、五瀬さんに呼びかけた。
雑多な工具や組み立て中らしい何かの機械が所狭しと埋め尽くす「工房」にも、五瀬さんの姿はなかった。
「おかしいな、実験室の装置は動いてるのに……」
もしかしたら、装置を作動させたまま外出しているのかもしれない。僕は仕方なく実験室に引き返すと、あらためて緑の物体を見つめた。
――「これ」はまだたぶん未完成で命は入っていない。つまり僕が入っても構わないってことだ。
僕は床の「掃除機」(正しくは吸引機というのだそうだが)に視線を落とした。
こちらの方はスイッチが入れられていないように見えた。もしあの吸引機にスイッチを入れることができれば、あの『ジェル』に乗り移ることが一人でもできるかもしれない。僕はふと、存在しない幽霊の鼓動が高鳴ったような錯覚を覚えた。
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