僕は幽霊からぶよぶよに昇格する

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僕は幽霊からぶよぶよに昇格する

   容器の中の命のない『ジェル』は、よく見ると周囲に弱々しい糸のような電流をまとっていた。あの電流が『ジェル』に活動するエネルギーを与える「食事」なのだ。  僕はなんとかして吸引装置のスイッチが入れられないものかと、頭を巡らせた。  本来の僕の身体に主人がいるこの世界では、仮の身体がなければ杏沙を探すこともできない。  ――スイッチはたぶん、装置の上にある奴だろう。だとすれば上から何かを落としてやれば入るかもしれない。霊でも物を落とすくらいのことならできるはずだ!  僕は何か落とせそうなものはないか、装置の近くを見回した。    ――あれなら、いけるか?  僕が目を留めたのは、台の端の方に乗っているオブジェ風のメモスタンドだった。  メモスタンドはちょっと変わった形をしていて、小さな台から伸びている針金の上にアンバランスなくらい大きな球体がついているのだった。  僕はメモスタンドに近づくと、ちょっとした振動でもぐらつきそうな上の球体を幽霊の手で押したり突いたりした。  当然のことながら丸いオブジェはびくともせず、僕がメモスタンドを使うことを諦めかけたその時だった。  傍の壁に紐で掛けられていたフォトパネルが突然、ぐらつき始めたかと思うと留めてあるピンが外れて台の上に落下した。 ごん、という音と共に落ちたパネルが台を震わせた瞬間、台の端にあったメモスタンドが大きく傾き、そのまま真下の装置に向かって落下した。  ――しめた!  メモスタンドは僕の読み通り吸引装置のスイッチにぶつかり、かちりという音がして吸引装置が唸りを上げ始めた。  ――ちょ、ちょっと待って!  僕は慌てて吸引装置のノズルの前に移動すると、「さあ来い」と念を込めて幽霊の目を閉じた。やがて目の前に火花が散り始め、身体が上下に揺さぶられるような衝撃を感じた。   ――来る!  僕が身構えた直後、身体がはじけるような感覚が僕を襲った。次の瞬間、僕は透明な容器の中に移動していた。  ――やった、成功だ!  僕は新しい『ジェル』の身体をぶるんと震わせると、「乗り移り」が成功したことを確信した。
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