僕は新たな身体を求め大冒険をする

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僕は新たな身体を求め大冒険をする

 晴れて『ジェル』という身体を手に入れた僕は、記憶を頼りに伸び縮みしたあげくどうにか容器の外に這いだすことに成功したが、問題はここからだ。  台の上から床の上へと降りるには、身体を細長く糸のように伸ばさなければならない。僕は苦労して床に降りると、「過去」の経験を一つ一つ思いだしながら隣の工房へと移動していった。  ――まだ「あれ」は完成していないはずだ。……でも「試作機」くらいは。  僕が期待していたのは、僕の身体をかたどって造られた『アンドロイド・ボディ』った。  話せば長くなるが、僕と杏沙が七月に『アップデーター』という侵略者と戦った(僕らの中では過去形なのだ)時、僕らが人間として動きまわれるよう五瀬さんが造ってくれた機械の身体が『アンドロイド・ボディ』なのだ。  『アンドロイド・ボディ』には『ジェル』の身体で操縦する超小型ドローンで乗り込む。はたして五瀬さんは、僕が乗り込むことのできるボディを完成させているだろうか?  もちろん、まだ僕と五瀬さんは「出会って」いない。僕のための身体なんて世界中、どこを探しても存在しないだろう。でも、五瀬さんはかなり前から『ジェル』と『アンドロイド・ボディ』の研究をしていたはずだ。試作品の一つくらい、どこかにあってもおかしくはない。  僕は普通の人間ならものの十数秒で移動できる距離を、十数分かけてずるずると動いた。工房の中を『ジェル』の身体でひと通り調べるのは重労働だったが、それでも僕は根気よく役に立ちそうな物体を探し続けた。  もし途中で五瀬さんが戻ってきたら、「無断でジェルに乗り移ってごめんなさい。七月になれば理由がわかるはずです」と謝るしかない。  それで歴史が狂うとかそういうことが起きたとしても、今の僕にはどうしようもないのだ。  僕は工房の三分の二くらいを見終えたところで『ジェル』の身体が縮み始めていることに気づいた。エネルギーと水分が減ると『ジェル』はどんどん小さくなってゆくのだ。  「充電」するにはまたあの容器に戻らなくてはならない。つまり実験室まで戻れるエネルギーを取っておかないと『ジェル』が限界まで縮んで、また「幽霊」に逆戻りしてしまうのだ。  ――ちくしょう、これが限界かよ!  僕が緑色の身体を悔しさで震わせた、その時だった。視界の隅にどこかで見たことのある形――人体の一部らしき物が飛び込んできた。    ――あれは……僕の身体、いや僕の身体になる前の『アンドロイド・ボディ』だ!  僕は腕と胴体、それに脚の一部を見せている黒っぽい物体へと必死で這っていった。
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