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僕は未来の僕でもある者に追い詰められる
工房の隅に積まれたパーツの山からまるで今産まれたかのように姿を見せたのは、かつて僕が乗り込んだこともあるずんぐりした体格のアンドロイドボディだった。
なぜ一目でわかったかというと、今から五か月後の未来に五瀬さんから『若い頃の僕」だという説明付きで使わせてもらったボディと同じだったからだ。
「顔が……」
僕はこちらに向けて足を踏みだした「試作機」の首から上を見て、思わず絶句した。
本来「試作機」の首から上には若い頃の五瀬さんの顔が乗っているはずなのに、いま顔のある場所に乗っているのは黒いケーブルが蛇のように絡みついた白っぽい球体だった。
球体の真ん中には一つ目のようなレンズがはまっていて、それが僕を見つめるように赤い光を放っているのだった。
「あ……う……」
「試作機」は前のめり気味に立ちあがると、僕に向かって両手を伸ばした。
僕は自分でも驚くような速さで身体を起こすと、ぎこちない動作で後ずさった。
「おおおおお」
「試作機」は僕と同じようにおぼつかない感じの動きで前に進み出ると、しかし確実に僕を求めて距離を縮め始めた。
――動いてるってことは中に誰かがいるんだな? 誰?
僕は実験室の方に後ずさりながら、あれこれ想像を巡らせた。
「おおおおっ」
「うわっ」
出口が近いことを察した僕が身を翻すと、「試作機」がまさかと思う速さで僕の脚を掴んだ。
「――わあっ」
僕は背後から引き倒されながら、すぐ目の前にある扉に向かって必死に手を伸ばした。
「おーっ」
僕が床に這いつくばったまま身体をよじって後ろを見ると、僕の頭部――つまり『ジェル』の僕が乗った操縦席だ――に向かって「試作機」が手を伸ばして来るのが見えた。
――やめろ、やめてくれっ。助けて五瀬さん!
僕が「試作機」から逃れるべく、『ジェル』の手足を動かし皿の外に脱出しかけた時だった。突然、ばちんと音がして「試作機」が動きを止め、そのままぐらりと僕の方に倒れ始めた。
「わ、わああっ」
次の瞬間、金属がぶつかりあう音と共に衝撃が操縦席を襲い、僕は皿の外に放り出されそうになった。数秒の沈黙の後、僕は重しのようにのしかかっている「試作機」の下から這いだすと、ふらつきながら工房の床に立った。
「試作機」はうつぶせの状態で倒れたままになっており、その背中からは差し込み口がむきだしになった四角い突起が見えていた。
――あそこに繋がっていたケーブルが抜けたのか!
僕は助かったことにほっとしつつ、「試作機」の中味を確かめるのもそこそこに工房を出た。
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