2019、佑介

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 インステップで佑介が弾き上げたボールは放物線を描きながら、傾き出した太陽を(かす)めつつ、ゴール前へと落下していた。緩やかな軌道の下のいくつかの人影は、石像のように一瞬固まった。    PAライン上の密集地帯を前に、ボールは佑介のいる右スペースへ。近くに敵はいない。  この状況で佑介のできることは次の二つだった。一つはグラウンダーで密集地帯を抜けるパス。もう一つは浮き球で密集地帯を越えるパス。どちらも前方にぽっかり空いたスペースへ配球し、一気に得点チャンスを作ることができる。タッチを増やしたくはない。ダイレクトなら、一瞬で状況を変えられる。  いくつかの敵の足がこちらを向いていることを確認した瞬間に、佑介の左足は転がってくるボールを掬い上げる体勢に入っていた。  流れが変わったボールは、密集地帯の頭上へ。しかし前方スペースに走り込むチームメイトは間に合わず、相手ゴールキーパーの下へと吸い寄せられた。  ーあと、少し。  あと少しの修正で、この形はものになる。チームの勝利のために、攻撃のバリエーションを増やして行く。佑介は一年生ながら、その一翼を担っていた。来る日も来る日もボールを追いかけながら、佑介たちは次の大会へ向けて練習を繰り返していた。  この春、都内の大学に合格した佑介は、迷わずサッカーサークルに入った。中学生まではサッカー部でエースだったが、高校で限界を感じてしまい、大学では体育会所属の部活ではなく、もっとラフにサッカーを楽しめるようにサークルを選んだのである。  ひとくちにサッカーサークルといっても、いろいろある。その中で、何やら違う目的も兼ねて集まったようなチャラいサークルになど入る気は毛頭なかった。いくらラフにできるといっても、サッカー好きが集まり、きちんと連日活動しているところでなければならなかった。  それに高校までのように、上下関係がしっかりしすぎているところも避けたかった。なるべくラフに、ラクに、しかしサッカーだけは真剣にやりたい。そんな訳で現在所属するサークルで佑介は、だいたい思い通りの大学生活を送ることができていた。
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