1.アリバイ作り

24/35
前へ
/359ページ
次へ
 ユナは死んでしまっても構わないし、隆哉が捕まって牢屋に入ってくれれば、もう、こんなふうに追いかけ回さなくても済むかもしれない。  なぜかはわからないけど、涙が出ていた。  なぜだかわからないけど、おかしさがこみ上げてきた。  やってはいけないことをやっていて、止めなきゃいけない時に止めないでいて、自分は、なんてクズなんだろうと、自嘲して笑った。  異変に気付いた正義感の強い人たちが、芽衣を追い越して、二人を引きはがしに行く。  騒ぎになり、人だかりが出来た。  隆哉が、数人の男たちに、取り押さえられていた。観念したのか、もう動いていない。  傍らには、血の付いた包丁が落ちていた。  ユナの体から流れ出た血が雨水と混じって、アスファルトに広がっていく。  芽衣は、その場を立ち去った。現場にいたこと、現場で何もしなかったことを、誰にも知られたくは無かった――  こんな鮮やかな色があったと思い出すほどに、フレアパンツの爽やかなグリーンが眩しい。  芽衣は、鏡の中の自分と目が合い、口元が緩む。 (未練がましく、いつまでも引き摺って、バカみたい)
/359ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加