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1.アリバイ作り
ゴシップ系ウエブサイトの記者である野崎芽衣は、棚に置かれた円柱状の水槽に目を奪われた。
液中に、薄ピンク色をしたクラゲのような物体が浮いている。動いてはいないけど、今にも活動を始めそうなほど、血色がいい。
その物体は、体を休めるため、長い睡眠を取っているかのように、気持ちよさそうに浮かんでいた。
「それは、ドリーの脳下垂体だよ」
芽衣が声の方に振り返ると、奥の部屋から、キツネのような目をした男が出てきた。両手に女性ものの服を抱えている。
今日、芽衣は、この井出フラグ(漢字では冨羅狐と書く)に会うためにここにきていた。
「ドリー?」
「知らないのかい? 哺乳類として、世界で初めて誕生したクローンの羊さ」
もやしのようにひょろりとした体を折ってローテーブルの上に服を置き、フラグが、ソファに腰を下ろした。
「クローンの羊……。そういえば、昔、聞いたことがあるわ……」
芽衣を見上げたフラグは、眉を上げてあごをひょいと突き出し、向かいのソファに座るように勧めてきた。
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