1.アリバイ作り

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 窓の外は、大雨だった。  メトロノームがリズムを刻むように、同じ間隔で窓のサッシを雨粒が叩いている。  芽衣は雨が大嫌いだった。嫌な思い出は、いつも雨の日だったから、今日もなにか不吉なことが起こりそうな予感がした。 「親父から貰ったんだよ。ボクが、十五歳になる誕生日だったかな? どこかで、手に入れて、プレゼントしてくれたんだよ」  芽衣がソファに腰かけても、フラグは持ってきた服の説明もせずに、水槽の話を続けた。  芽衣は、先週、この事務所を訪れて、フラグに仕事を依頼した。  今日は、その経過を聞きにきている。 「ボクは、生物学に興味があってね。だから、この仕事も続けていけるんだ」  フラグは、”アリバイ屋”だった。  世の中には、アリバイを作りたい人間が数多(あまた)いるらしく、フラグの店は繁盛している。  芽衣は、先週、初めてこの事務所に来た時、フラグからそう教えてもらった。  街中には防犯カメラが溢れ、ドライブレコーダーが普及した昨今は、特に、依頼が増えたという。  嘘や出まかせが通用しない世の中になったせいなのだと、フラグは笑いながら言っていた。
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