16人が本棚に入れています
本棚に追加
窓の外は、大雨だった。
メトロノームがリズムを刻むように、同じ間隔で窓のサッシを雨粒が叩いている。
芽衣は雨が大嫌いだった。嫌な思い出は、いつも雨の日だったから、今日もなにか不吉なことが起こりそうな予感がした。
「親父から貰ったんだよ。ボクが、十五歳になる誕生日だったかな? どこかで、手に入れて、プレゼントしてくれたんだよ」
芽衣がソファに腰かけても、フラグは持ってきた服の説明もせずに、水槽の話を続けた。
芽衣は、先週、この事務所を訪れて、フラグに仕事を依頼した。
今日は、その経過を聞きにきている。
「ボクは、生物学に興味があってね。だから、この仕事も続けていけるんだ」
フラグは、”アリバイ屋”だった。
世の中には、アリバイを作りたい人間が数多いるらしく、フラグの店は繁盛している。
芽衣は、先週、初めてこの事務所に来た時、フラグからそう教えてもらった。
街中には防犯カメラが溢れ、ドライブレコーダーが普及した昨今は、特に、依頼が増えたという。
嘘や出まかせが通用しない世の中になったせいなのだと、フラグは笑いながら言っていた。
最初のコメントを投稿しよう!