さよなら私のメランコリーデイズ

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さよなら私のメランコリーデイズ

 片っ端からハリセンで頭を叩いていきたい。  ベランダで洗濯物を干しながら、私は隣の公園で、マナー違反の酒盛りをしている花見客を見下ろしそんなことを思った。  大学進学で上京してから二度目の春を迎える。今年も、四月の夜が私の心に憂鬱を描く。  母子家庭で貧しかった私は、実家からの仕送りなどはなく、公園の真横にある小さなボロアパートの二階に住んでいる。室内に洗濯機を置くスペースはなく、ベランダ置きの狭い部屋だ。  大学の授業以外の時間を全てバイトに充てても、それでも生活はいつもギリギリだった。  近頃はずっと、疲れて部屋に帰ると横の公園から大声で騒ぐ酔っ払いの声が聞こえてくる。  今日は何時に終わるのだろう……。そのまま空き缶や食べ残しを放置する人も多く、この時期の公園はひどく不衛生になる。 ・夜九時以降の花見は近隣の迷惑となるためお控え下さい ・飲食で出たゴミは、必ず各自でお持ち帰り下さい  公園のフェンスに貼られた、区役所地域課の小さなポスターなど酔っ払いの目にはとまらない。黒一色の文字のみの控えめなそのポスターに、「もっと激しく主張しなさいよ!」と、私はいつも心でツッコミを入れている。  こうして、三月下旬から四月をメインに、私の憂鬱な日々が始まる。  それもこれも、この公園に満開に咲く美しいソメイヨシノがあるからだ。ここに桜さえ無ければ、私はもっと穏やかな春を過ごせたはずなのに……。  恨むべきはマナー違反をしている人々だと頭では理解しつつ、それでも、八つ当たりのように桜を恨んでしまう感情を抑える事ができなかった。  大学でもそうだ。  サークルの新歓コンパや合宿。四月の桜と共に騒ぎ出す人たちを見るとイライラしてしまう。  随分お気楽な人生ですね。と、そんな嫌味なことばかり考える自分が、本当は何より嫌いだった。
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