さよなら私のメランコリーデイズ

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   その説明のどこに「ご安心」の材料が含まれているのか。軽いパニック状態の私を、青年は隣のベランダから身を乗り出し心配そうに見ている。 「そこっす。そこの桜の中の者です!」  指差す先にあるのは、満開のソメイヨシノだ。 「そしてこちらが僕の兄で、その隣にある、桜の中の者っす」  恐る恐る立ち上がり、体を前に乗り出し隣のベランダを覗き込むと、柵に座った青年の横に、もう一人男性がいた。  先程から繰り返される『桜の中の者』という言葉はいったい何なのか。まるで『皆さんご存知の』とばかりにそれを繰り返されても、まったく存じ上げていないのだ。 「よし。通報しよう」  不審者だ。自分の中でそう答えを出して、私はポケットからスマホを取り出した。 「あ、待って! 今は実体化してるんで見えてますけど、基本は見えない状態なんで! 通報すると、君が困った通報者になるっすよ!」  いよいよ、会話がおかしな事になってきた。 「うん。通報する!」  もう一度、決心して私は頷いた。 「あー、待って! じゃ、じゃあ。今から一瞬だけ消えるんで! 実体化を解きます。それを見てから判断して欲しいっす」  そんな言葉を残して、彼らの姿が私の前から忽然と消えた。 「え?…………やだ、嘘でしょ」  あまりの事態に壊れそうなほど心拍数が上がり、息苦しくなってくる。それからしばらくして、彼らが隣のベランダに再び現れた。 「信じて頂けました? 僕らは桜の中の者なんで、害はないっす」  つまり……。 「桜の木の、精霊的な? 人ですか?」  小さく尋ねると、「そんな感じっす」と青年が笑う。その隣にいるもう一人の青年は、相変わらず黙ってうつむいていた。
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