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基本、桜の中の者はみんな人見知りなのだと言う。誰も見られたいと思っていないし、そっとしておいて欲しいと願う者ばかりらしい。
昔からずっと、「花見がしたいなら、どうか他の花でお願いします」と祈り続けているそうだ。
そんな桜の中の者とは違い、梅の中の者たちは、「俺を見ろ!」「私を見て!」と思っている者が多くいるのに反して、日本人が桜の開花ばかりに注目するので、梅の中の者から筋違いな恨みを抱かれる事態となっているのが、桜の中の者にとっての悩みの一つなのだと言う。
桜の中の者としては、人間の皆さんは、梅の皆さんと勝手に盛り上がって頂ければ幸いです。というのが本音だそうだ。
「もう。マジでツラいんすよ、立場的に」
桜の花弁がこんなにも一瞬で散ってしまうのは、人間の視線に対するストレスで、人間がストレス過多で禿げるのと似たような原理らしい。
「思わず、君の怒りの感情と僕らの憂鬱な波動がシンクロして、実体化しちゃったっす」
つまり桜は常々、花見をする人間に対して、「こっち見んな」と思っているという事になる。
衝撃の事実だ!
狭い私の部屋の中で、桜の中の者が二人。
ローテーブルの前で正座し、愚痴を吐きながらミネラルウォーターを飲んでいる。
「あなたも人見知りなの?」
ずっとフレンドリーに喋り続けている方の青年を見た。
「僕は異端児で、桜の中の者としてはコミュニケーション能力レベルマックスっす。基本は、隣にいる兄と同様に、みんなコミュ症なんで」
ずっとうつむいていた兄の方が、内緒話でもするように弟の耳にコソコソと何か話し出した。
「あ、兄が! あなたになら、挨拶をしたいと申してるっす」
「え?」
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