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黒岩雅美は朝からイライラしていた。すこし朝寝坊をして目を覚ますと、隣に夫の姿がなかった。どこかしらとキッチンを覗くと、テーブルにメモがあった。
“ちょっと出かけてくる。夕方までには戻ります ゆうじ”
とたんに頭に血がのぼった。ちょっとってどこよ? まさか、あの女のところじゃないでしょうね。沸々と怒りが湧いてくる。夫の裕治よりも、あの女、雨宮響子にだ。あの泥棒猫。このまえあれほどキツく言ったのに、厚かましいにもほどがある。しかも今日は自分の誕生日だ。かつて覚えのない血が沸き立つほどの怒りに、雅美は身体を震わせた。
しばらくするとインターホンが鳴った。ドアモニターに長い黒髪の女。雨に濡れたのか顔に張りついた乱れた髪が不気味だったが、あの女だとわかった。
ふうっと息を吐き、つとめて落ち着いた声で「すこしお待ちください」と応える。
慌てて髪を梳かし簡単に化粧をすると、解錠ボタンを押した。
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