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高校を卒業して五年が経った。
久しぶりに同窓会をしようと同じクラスだった奴が発起人になって、それなりの人数が集まったらしい。
店に行く前に時間が取れる人だけで学校に行ってみないかという誘いもあって、雪宮は卒業以来五年ぶりの校舎の中を歩いていた。
ここに通っていた頃に仲良くなった友人とはあれから付き合いが続いていて、今日も一緒にここに来ていた。
その友人に、ちょっと行ってくると当時のように一言告げて、今は一人になったところだった。
一人になって懐かしみながら向かう場所と言えば、ここしかなかった。
五年も経ってさらに古びたように見える第二体育館。
でもこの場所はそんなに変わっていないように見えた。
今年は例年より開花が早いようで、見上げた桜がとても綺麗だった。
あとから聞いた話だが、春川の転校は年が明ける前には決まっていたらしい。
でも本人の希望もあって、先生達の他にはごく一部の親しい友人にしか話していなかったそうだ。
何も知らされていなかった事実と春川がいないという現実のダブルパンチは、想像以上に雪宮にダメージを与えていた。
一緒に見るはずだった桜を一人で散るまで見届けたあの時の感情を、雪宮はまだ鮮明に覚えている。
でも二回目の春は少し違った。
桜が散っても変わらずここに通い続けて、一人のそんな生活にも慣れ始めて。
またやってきた春に、寂しいとか悲しい気持ちを思い出すかと思っていたけど。
言ってやりたいことがたくさんできていた。
顔を見て直接ぶつけてやりたいことがたくさんあった。
久しぶりの桜を見上げていると、あの時の思いが腹の底から蘇ってくるようだ。
「ったく、どこにいるんだよ。ばーか」
届くはずのない声を空に向けて放った。
すると一枚の花びらがハラハラと降ってきたと思ったら、雪宮の顔めがけて落ちてきた。
驚いて顔を拭うような仕草をしたその時だった。
「あれー?泣いてるのー?」
本当に不思議だ。この声を聞くと、一瞬で引き戻されてしまうのだ。
振り返らなくてもわかる。きっとあの頃より少し大人びているだろうけど。
「泣いてねーし!」
言いたいこと、聞きたいこと、たくさんあるんだ。
だからちゃんと聞いて、ちゃんと答えてくれよ。
視界が少し滲んだことは、悔しいから絶対に言ってやらない。
雪宮は固く誓って後ろを振り返った。
完
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