春に雪が溢れる花

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春に雪が溢れる花

 雪宮は四時間目が終わると、コンビニの袋を片手に第二体育館裏へと向かった。 現在教室で使われている現役の勉強机よりも、少し年季の入った机と椅子が二組、向かい合わせで並べられているそこに、いつもの姿は見当たらなかった。 昼休みをここで過ごすことが定番になってから、大抵雪宮が迎えられることの方が多かったのだが。 まぁすぐに来るだろうと特に気にする様子もなく、雪宮は定位置に腰を下ろした。 袋の中身を広げていると突然吹いた風に軽くなった袋が飛ばされそうになって、慌てて机の上で押さえた。 衣替えを終えて、あれだけ暑かった夏がみるみるといなくなってしまった。 それでもまだ今日は日差しが降り注いで暖かいほうだ。今みたいな風が吹けば別だけど。 そろそろ外で食べるのも考えものかと、雪宮がペットボトルに手を伸ばしたときだった。 「あれ~?雪宮もういる」 「いちゃ悪いの」 「そうじゃないけど、なんか負けた感じ」 「何の勝負?ってか、俺はいつも通りだし。春川が遅かったんじゃん」 春川は少し膨れた顔で、雪宮の正面に座った。 「職員室に寄らなきゃいけなかったの。でも、雪宮は購買に行ってから来るだろうから私の方が早いと思ったんだけどなぁ」 そう言いながら机の上を見て、拗ねた声が納得のものに変わった。 「今日購買行ってないの?」 「あぁ、なんか今日はコンビニの気分だったから」 なにそれ、と春川は笑いながら、持ってきた弁当箱の蓋を開けた。 雪宮の昼食は買い食いばかりだが、対照的に春川は毎日弁当を持参していた。 「絶対に栄養偏ってると思うんだよね」 「そんなことない。晩飯はそれなりにちゃんとしてるし」 「レンジでチンでしょ?」 「お前、冷凍食品バカにするのか」 「いや今の冷食はすごいよね。それはわかる」 そう言うとなぜだか雪宮は急に得意げな顔になった。 「それに最近はサラダくらいなら作ってるし」 惣菜パンをかじりながらの言動に、春川は思わず笑いそうになった。 もしかしたら千切りになっているものを買ってきて、皿に盛っているだけの可能性もありえる。 それでも大きな変化なのが春川にはわかって、自然とこの言葉が出てきた。 「へぇ、すごいじゃん」 「誰かさんに口うるさく言われたからなぁ」 「うるさく言った甲斐があって良かった。じゃあ次はお味噌汁作ってみなよ」 口をもぐもぐと動かしながら、雪宮は渋い顔をした。 「沸かしたお湯に切った野菜入れて、出汁と味噌入れるだけなんだから。できるって」 「・・・なんかバカにされてる気分」 気にくわないと言いたげに、雪宮はもっと眉をひそめた。 「ごめんごめん、作り方くらい知ってるか」 「ほら、バカにしてんだろ」 「してないよ、してない」 春川の口元のニヤつきを指摘して、雪宮はますます誤解したように不機嫌を装う。 今日は雪宮から仕掛けて、春川がそれに乗っかって。じゃれ合うように遊んで。 初めはこんな場所を求めていたわけではなかったのに。
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