イケメン魔王と13人のお后さま

身代わり花嫁

「あの鬼ババァ、好き勝手に怒鳴り散らして〜！」

　天を仰ぐ私に悲しそうな顔をしたハンナが言った。

「……すみません」

「どうしてハンナが謝るのよ？」

「シスター・クレメンスは私の育ての親なんです……」

「えっ！？ハンナのお母さん？ってえっ？育ての？って、えっ？」

「実は私は戦災孤児だったんです。」

うわぁ。悪いこと聞いちゃった。

　ハンナが話してくれた内容はなかなかハードだったけど、確かに運が良いとは言える、だけどあの鬼のようなシスターの教えを、キチンとできるようになったハンナの努力が運を引き寄せたって話にも聞こえた。

マナーも教養もない戦災孤児の末路なんて、きっとあたしのいた現代日本では想像もつかないくらい悲惨なんだろう──

翌日── 前の日の夜、ハンナの話を聞いた私は気合充分でレッスンに臨んだ。のだが、一時間もしないうちに空気の抜けた風船の様になってしまった。

「駄目！やり直し！」

「はい……すみません」

「違う！やり直し！」

「はい……すみません」

　一生分のすみませんを言い切ったくらい言った上で、私は更にすみませんを重ねた、そりゃあのサル姫も怖がるわ……。

「でもクレアお義母さんはとっても優しいんです！」

　そぉかなぁ── 条件反射的に反論しかけてあたしはふと思い直す。

　そう言えば、元の世界でも厳しい先生は居た、厳しすぎてモデルスクールの生徒達からは嫌われていたけど、あの先生だって未熟な私達に必死で教えてくれたんだ。

　異世界に来て、あの先生が厳しかった理由がやっと分かった。