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『魔王』アルヴェル
翌日──ハンナと共に魔王の城に向かうはずの私が呼び出されたのは城の外ではなく城内のホールだった。
「ここは、お城の人たちが使う礼拝堂なんです。」
ハンナの説明によると、王様達も礼拝に行くのだけれどいちいち外に行くのは面倒と言う事で城の中に教会を作ったのだそうだ。
「まぁ、ホントは戦時中に城の外にある教会に行くのが危険だからなんですけどね。」
「へぇ。」
ハンナは本当にいろんなことを知っている。
その礼拝堂には、私とハンナの他にはナボじいと召喚された時に拷問を提案した『武人らしき男』の二人しか居なかった。
壁に十字架をかけた円形のホールには馬が繋がれていない馬車だけが置いてあり、中には当面の着替えと僅かな宝石類(しかも模造品!)こまごまとした日用品が入って居るけど、明らかに年代物の馬車だった。
「ふむ、まだ現れていないようですな。」
「まったく、こっちは忙しいのに…」
ナボじと『武人らしき男』は仏頂面でなにやら話しているけど、コレって国の最重要な仕事じゃなかったっけ?
「姫さま」
ボボボボボッ
「何アレッ!?」
ホールの中央に突然赤い魔法陣が現れ、黒いモヤが湧き出て来る。
黒いモヤはやがて集まって黒い塊となった。
「ぐぶぶぶぶ、一国の姫の嫁入り道具がそれだけとは、憐れなものよのう」
ゴボゴボ流れる排水管の音みたいな声に鳥肌の立った私は思わずハンナの手をギュッと握った。
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