XIII 夜明け

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「全部でいくつかな?」 「いつつよ」 「正解。よくできたね、おちびさん」 「あたし、おちびさんじゃないわ。てをつかわず、かぞえられるもの」 「そうだったね、お名前は?」 「アウローラ。おぼえてちょうだい、オレンジうりさん」 その名前を聞くだけで、シモンは笑みをこぼさずにいられない。 アウローラと名乗った愛らしい少女は、ホセの一人目の娘だ。 父の親友が付けたその名は、〈暁〉つまり〈夜明け〉を表すと聞いた。ガラノスを治めるエウリーコにとっての初孫で、この町の発展が始まった頃に生まれた彼女に相応しいと、誰もが感じるだろう。 そんなアウローラは祖母が織った生地で作った小さな鞄から、代金と、野菜の葉の束を取り出した。 「マンチャにあげてもいい?」 「ああ、構わないよ」 許可を得ると、わくわくした様子でテントの日陰に入ってくる。膝を折って休むマンチャの鼻先へ持っていき、食べさせるのを、シモンは荷車に寄り掛かって見ていた。 と、道を行き交う人混みの中からホセが現れる。 隣には、赤い髪をきちんと整えたイニゴの姿もあった。職人街で暮らすようになり、農場にいた頃より肌の赤みが引いている。 「商売は順調か? オレンジ売りのシモン」 笑顔で尋ねてくるホセの調子は、市場が大きくなっても変わらない。口髭を生やし始めたのは、エウリーコの補佐役として町全体の運営に携わるようになった二年前からだ。 「見ての通りさ。おちびさんが一人でお使いに来てるよ」 シモンの視線を追ったホセは惚けたような笑顔になり、愛娘に近寄っていく。今朝も昨夜も顔を合わせているだろうに、思いがけず目にした事が嬉しくて堪らない様子だ。
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