XIII 夜明け

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残ったイニゴがシモンの顔を見上げて聞く。 「農場のみんなは元気?」 「もちろん。それに、イニゴのことを気にかけてる」 「元気だって伝えておいて。それから聞いて。親方から、次のシモンの靴はぼくが作るようにって」 十九になったイニゴは自身の手先の器用さを誇らしく思うようになり、少年期の不安そうな様子は、そばかすと一緒にすっかり消えた。 「本当に? それはすごい!」 シモンは喜び、一度、足元を見下ろす。サンダル履きで傷だらけだった足は、ひと回りもふた回りも大きくなったクロンプに守られている。 向き合って立つイニゴの片足は引きずられたままだが、使う杖は本人の背に合わせて会う度に伸び、模様もますます精巧になった。 そこで、シモンはふと思い出して提案する。 「そうだ! タシトがまた外国の詩を教えてくれた。次は裏にそれを彫ってよ」 異例の若さで山向こうの学校に通う事を認められたタシトは、十七歳になる今もオラシオに付き、さらなる学びを深めている。海の向こうから届いた貿易の申し出を翻訳し、返信を書いて、計画をまとめたのも彼だ。 週末は家庭教師さながらに、農場で働く老若男女に文字や文学を教えている。お陰でシモンは『オレンジ』以外の文字を読み、古代の哲学者が伝えた愛の詩にまで触れられるようになったのだ。 「足跡がつく度にそれを残していったら、おもしろそうじゃない?」 シモンの考えに、イニゴも賛成する。 「いい考えだね! 夕方、農場に帰る前に工房に寄って。買い出しを終えた最後でもいい」 「一番に行くさ! もしオレンジが余ったら、お土産にするよ」 嬉しそうに頷くと、イニゴは踵を返し、一人で職人街の方へと戻って行った。以前より人の往来が増えたもので、道すがら一緒になったホセは、彼が歩きやすいように付き添っていたのだろう。
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