XIII 夜明け

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そのホセが、肩を落としてテントの奥から戻ってくる。 「一人で帰るって聞かないんだ。マンチャにもっと早食いになるよう言ってくれよ」 「家はすぐそこじゃないか。お使いの度にお父さんがついて来たんじゃ意味がない」 シモンは苦笑し、その肩を叩いて窘める。 「イニゴも一人で戻って行ったよ。もう十九なんだ。今度、僕の靴を作ってくれるって」 途端に、ホセは目を輝かせ、口髭の中で歯を見せた。 「そうか、それは良い話じゃないか! 農場の三人は立派な男になった。もうおちびさんとは呼べないな」 おちびさんと言えば、と再びアウローラに目を向けるシモン。 「そっちのおちびさんが数を数えられるようになってびっくりだ」 「ソフィーも驚いてたよ。子供の成長はあっという間だ」 ホセの妻ソフィーは二人目の赤ん坊の世話の合間を縫って、長女と一緒に勉強をしているそうだ。 「──と、今日はこれを渡そうと思って来たんだ。少し、いいか?」 そう言って、ホセは小さな包みを取り出した。家に届けられた物を、わざわざ持ってきたのだろうか。 「荷物なら、いつもみたいに後で受け取りに行ったのに」 不思議に思って言うシモンだったが、 「うちに届いたんじゃなく、昨日来たキャラック船の積荷に紛れ込んでたんだ。人の手を介すと、きっと分からなくなる」 ホセはアウローラを見つけた時とは別人のような、真面目な面持ちで伝えてきた。 手渡された包みは小さな割に重みがあり、しっかりと梱包されている。航海の途中に傷が付かないようにするためだ。 町には流通していないはずの、しかしなぜか懐かしい香料が、かすかに香った気がした。
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