XIII 夜明け

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「エンポリアー号に乗っていたの?」 港の方を見て尋ねるシモン。ホセも一度同じ方向を確認し、首を振った。 「いいや、もう一隻の方だ。ガラノスに来たのは初めてらしい。けど、まるでオレが見つけるのを見越してたみたいだ」 白い歯を見せなくなったホセに促され、慎重に宛名を確認する。 『青い町の半分のオレンジへ』 文字を読める者であっても、その一文だけでは、何を表しているのか理解できないだろう。 だが、ホセがこうして届ける事ができたのは、そしてそれを読んだシモンの心臓が大きく跳ねたのは、五年前の出来事を忘れていないからだ。 これを送ってきた相手も同様に、この町で過ごした日々を憶えていたに違いない。 シモンははやる気持ちを押さえ、包みを開く。 現れたのは、見覚えのある装飾品だった。金のメダルを連ねたネックレス、じゃらじゃらと鳴る革のブレスレット、大きな宝石のついた指輪。 当時はどれも人目を引く輝きを放っていたはずだが、町全体が(まばゆ)い光に包まれた今になって見ると、どうにもそれが鈍くなったように思える。 メダルは潮に当てられてくすみ、革はちぎれそうなまですり切れ、宝石には細かい傷がついていた。 手紙の類いは見当たらない。ただ、その様相が、〈片割れ〉の手元へと届けられた意味を物語っている。 「シモン……」 二人で中身を確認していたが、ホセが眉根を寄せ、唇をきつく引き結ぶのが先だった。 「ああ、そんな……」 続いて、シモンがこぼす。 それらを身に付けていた肉体が、みずからを〈オレンジの片割れ〉と呼んだ半身が、もう二度と、この町には戻って来ないと確信したのだ。
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