貪食

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貪食

 姫野の言う通り、篤史はこれまで以上にゲームに課金する資金を欲しがった。レアな武器だの限定バフだの、何のことを言っているのかさっぱり分からない。しかし、いつものように一方的に要求だけがなり立てて自室に引っ込むのではなく、こちらからの問いかけに反応するようになった。ゲーム中はペットボトルに用を足していたのが、ちゃんとトイレにおりてくるようになったのも進歩だった。 「最近よく食べるわね」  ある日の昼、ついに篤史が台所に現れた。  嬉しさのあまり母親が声を掛けると、篤史はカップ麺と水のペットボトルを手に、ギロリとこちらをにらんだ。やはり風呂には入っていないのか、べたついた長い髪が異臭を放っている。 「ずっと……起きてるから……」  ぼそりと答える。 「ずっと?」  聞き返す母に、篤史は顔をしかめた。 「あんま、寝なくて済むサプリ……もらって飲んでる」 「サプリ?」  母親の顔色がサッと変わった。  姫野が渡したのだろうか。  ずっと寝なくて済むなんて、そんなサプリがあるわけがない。  それは、なにか麻薬か覚せい剤みたいなものなのでは?  しばらく、2階の扉越しの姫野と篤史のやり取りに同席していなかった母親は不安になった。 「大丈夫なの? それ……」 「うん。スピア姫も……飲んでるって」 「姫野さんも?」 「その場で飲んで……残り、俺にくれた」 「まぁ……」  自分が知らないだけで、そういうものがあるのだろうか?  でも、そのおかげで、何年ぶりかでこうして昼間に我が子と顔を合わせることが出来ているわけだし……。  違和感は澱の様に心の片隅にひらりと影を落としたが、前向きな変化の前には些細なことと目を瞑った。 「それに、もう……飲み終わったから……」  そう言って、篤史は俯き、踵を返して台所から出て行った。 「何か、追加して買っておくけど、食べたいものある?」  母親は慌てて後を追う。篤史は背中を向けたままで、ふと足を止めた。 「……肉。唐揚げ喰いたい」 「ああ……唐揚げね。わかったわ。いっぱい……いっぱい作っとく」  母親は目を潤ませてなんども頷いた。
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