羽化

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羽化

「どうですか? 篤史さんの様子は」  夏を思わせる日射しも眩い休日、姫野はいつものようにニコニコ顔でやってきた。 「まぁ、いらっしゃい。今日は暑かったでしょう?」  今では、赤星夫妻も笑顔で姫野を迎え入れられるようになっている。 「最近は、本当に落ち着いてきたんですよ。夜起きてはいるみたいですが、以前みたいに奇声を上げて暴れたりしなくなりました。顔を合わせても普通に会話が出来るんです。本当に……一体、篤史にどんな魔法をかけてくださったのか……」  赤星は目を潤ませながら何度も白髪頭を下げた。 「それは良かった。私たちは、ネットゲームを通じて彼とコミュニケーションを取っていただけですよ。私たちに心を開いて、今のままではいけないって気付くことが出来たのは、篤史さん自身の力です。本当に、篤史さんは頑張ってくれました」  姫野も感極まった顔で赤星の手を力強く握る。 「それでは、今日は総仕上げと行きます。篤史さんを、外に誘ってみようと思うんですよ。ゲームで懇意になったプレイヤー同士、来週末オフ会を開くんです。篤史さんを、是非そこに誘いたいんですよね」 「オフ会? 何ですかそれは?」  赤星の妻は怪訝そうな顔で姫野に問うた。 「普段はネット上……オンでの付き合いだった者同士が、ネットを離れたリアルで顔合わせをしようという企画です。勿論、久しぶりに外に出る篤史さんに無理をさせるつもりはありません。送り迎えはこちらにお任せください」  姫野は穏やかな顔で見返した。  本当に、どこまでも頼りになる人だ。  赤星夫妻は感激して顔を見合わせた。  姫野がいつものように2階に上がり、子ども部屋の扉を軽くノックすると、はい、と声がして篤史が顔を出した。 「こんにちは。随分と顔色はいいみたいね。実は、来週末ギルドのオフ会があるんだけど、どう? 『蒼きアギト』も参戦する?」 「えっ? いいんですか?」  篤史の顔がパッと明るくなる。  最近は風呂に入って小まめに着替えるようになっていた。洗髪した長髪はヘアゴムで無造作に括っているだけだが、随分とこざっぱりして見える。 「嬉しいなぁ。スピア姫のとこみたいな有名なギルドのオフなんていうと、有名どころのB社長とか、廃人ゼロさんとかも来るんでしょう?」 「ええ。そうよ。『蒼きアギト』が出てくるって言ったらきっと喜ぶわ。ボイスチャットでお話して解ったと思うけど、みんな明るいいい人なの」 「ボイス……チャット?」  赤星が目をパチクリさせると、篤史が苦笑いで説明した。 「音声通話しながらゲームしてたんだよ。ゲームしながら、色んな人に声を掛けて貰って、話して……俺、ちょっと、自信がついたんだ。オフ会、行ってみるよ。気心の知れた人とだったら大丈夫かもしれない。……姫野さんも一緒みたいだし」  ちょっと頬を赤らめながら横目で姫野を見る篤史に、姫野も肩をすくめて赤くなった。  
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