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――疲れた。看病ってこんなしんどいのか。
とんでもない疲労感だ。
嵐士は一見細いけど、やっぱり男の子で筋肉質なのか、ベッドまで運ぶのは一苦労だった。
ベッドに運んでからも、汗で濡れているTシャツを着替えさせたり、その間も寒いと言ったり熱いと言ったりで空調管理は難しいし、タクシー呼ぶから病院に行こうって言っても断固拒否だし。
「……夏風邪は”なんとか”しか引かないっていうけどな…」
何種類か買っていた薬の中から解熱作用のあるものを飲ませて、水分補給させて、おでこに冷えピタを貼って。いつ嘔吐しても対応できるようにゴミ箱に袋を被せて近くに置いて。
あれからとにかくいろいろと働いた。
薬が効いて少し落ち着いたのか、スヤスヤと寝息を立てる嵐士をベッド端にもたれかかって見つめる。
来た時、室温は外気のそれに似た熱気に包まれていたし、スポーツドリンクを冷蔵庫にしまおうとしたら、中身からっぽだし。
生活能力が無いかと思えば、部屋の中は小綺麗に片付いているし、嵐士はよくわからないやつだな…と思う。
――あたしが来なくても、他の女の子が来てくれたのでは?
数多くの女の子と浮名を流している嵐士のことだ。助けての一言で誰かしら来てくれただろうに。
考えてみたら、今の時代買い物代行業とかも普及しているのに、あたしが来る必要あったのだろうか?とも思う。
なんだかんだ言って、嵐士に振り回されているのは自分も同じだと気づく。
とはいえ来たのは自分だし、文句言ったところでこの調子だ。あたしに連絡したことさえ忘れているかもしれない。
ここ最近嵐士が変だったのはこのせいだったのか、と妙に腑に落ちた。
体調悪いの隠しながら生活し、生命維持ギリギリのところまで我慢してやっと弱音を吐いた。そんなところだろう。
「こっちはデートドタキャンしてまで来たっていうのに……、なんも知らずに安心したみたいに寝ちゃってさ」
綺麗な寝顔を見ていると、デコピンのひとつでもしてやりたくなってくるけど、やっと静かに寝ているのだからそっとしておいてやろう、と思いとどまる。
――そういえば嵐士の寝顔を見るのは初めてだな。
改めて見ると整ったルックスをしていて、寝ている時でも綺麗な顔のままだ。性質はさておき、顔だけ見れば女の子からキャーキャー言われているのも頷ける。
それでいて優しくて、ムードある場所に連れていかれて甘い言葉のひとつやふたつでも掛けられようもんなら、そりゃ好きにもなるんだろうな、ってちょっと思った。
実際、最近まで自分に向けられていた嵐士のおかしな言動に、あたしはしっかり動揺してしまった。
『女として見られてないだけじゃない?』
ふいに今朝見た夢の言葉が頭に浮かぶ。
友達ってそういうものだし、別にそれがいけないことなわけじゃない。
体の関係になった女の子たちは、それはそれは悲しい末路を辿っているのを、これまで散々見て来た。
この関係にいつか終わりが来るなら、これからもずっと続く友人関係の方が全然マシだとえ思う。
『俺は嫌だよ』
嵐士はあたしに彼氏が出来るのは嫌だと言っていたけど、それだって”唯一の女友達”を捕られたみたいな感覚で嫌なだけで、そこに深い意味なんてきっとない。
だって、嵐士にとってあたしの価値は”唯一の女友達”ってところにあるんだから。望んでいるのは”女の顔するあたし”じゃない。
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