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「ちょ……タンマ!!!」
間一髪のところで嵐士の頬を両手で掴んで、それを阻止する。
「何!? 急に…」
嵐士とのこういう"男女"みたいな空気感には慣れていないから戸惑いを隠せない。
いつもの嵐士らしくない行動にこちらの気が狂いそうになる。
「他の男の前で女の顔する木綿子なんて、見たくない……」
「いや待て。それめちゃくちゃ失礼じゃない? 一応、生物学的上は女なんだけど」
嵐士の目にはあたしが男にでも見えてるんですか?
って、そんなこと言ってる場合ではない。
”女の顔見たくない”とか失礼なことを言いながら、なんであたしのこと組み敷こうとしてるんだ、この男は。
言ってることとやってることが伴ってないじゃないか。
「男なんて告白受け入れてくれた女に抱く感情なんて”これで気兼ねなくセックスできる”っていう最低低能生物なんだよ」
「はぁ? なにわけわかんないこと言ってんの!? てか、先輩はそんな人じゃないし!それと嵐士とエッチするのとじゃ全然話が違うじゃん!! 悪いもんでも食ったんか!?」
意味のわからない論争をしていると、途端に嵐士の腕から力が抜けていく。
不覚にもいろんな意味でドキドキしてしまったあたしは、その隙を見逃さずに嵐士から少し距離を取って乱れた息を整える。
「……たしかに」
急に正気に戻ったように、嵐士はあっけらかんと笑う。
「あ~あ、俺なら木綿子のこと死ぬ程きもちよくしてやれるのにな~」
「いや…だからぁ…」
なんだこの男。情緒不安定すぎてついていけない。
「なんだよ、ケチだな。ちょっとくらいいいじゃ~ん」
「あんたって本っっ当に最低……」
口を尖らせて拗ねたように見せる嵐士の顔を見て、今までの一連のやり取りがこいつの悪い冗談だったと悟ったあたしは、一瞬でもある意味でドキドキしてしまったのを死ぬほど後悔した。
「木綿子に彼氏が出来るのが嫌なのは本当だよ?」
「はいはい、もうその話いいよ…疲れた」
こんな綺麗な場所でなんて下世話な会話をしてるんだか…。
急に全部馬鹿らしくなってきて、あたしはため息をついた。
だから、先輩からの告白が”すべてのはじまり”になるだなんて、この時は思いもしなかった。
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