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【Bmelo】 暗雲から指すのは焦がれた想い
「明日ですか?」
「うん。明日から夏休みでしょ?ちょうど親父から映画のチケットもらったから一緒にどうかな」
秋生先輩から告白をされてから、早一週間。
あれからちょくちょく食事に誘われたりしている。
本当にあれは夢じゃなかったんだな、と妙にリアリティが増していく。
人から好意を向けられるというのはとても心地がいいもので、正直悪い気がしない。
今回誘ってもらった映画は3年前から大ヒットを記録しているシリーズの最新作で、前作は3回も映画館で見返すほどによくて、すごく大好きな映画だ。
「是非行きたいです!」
「よかった。じゃあ上映時間までにどこかでお茶でもしようか」
「はい!」
――ああ、なんだかこういうのって青春だな。
一週間前までは、まさかこんな青春が自分に舞い降りるだなんて思いもしなかったのに。人生とはいつ何が起こるかわからないものだ。
「また連絡するね」
「はい、待ってます」
優しく微笑みながら小さく手を振る秋生先輩が尊くて、あたしはほっこりしてしまう。
「ずいぶん楽しそうだな」
「うわっ!気配消して近づくのやめてよ嵐士」
注意を払っていない頭の上に、突然顎を乗せられて心底驚いた。
心臓飛び出るから奇行に走らないで欲しいものだ。
「木綿子は俺に気づかないくらい、秋生先輩に夢中だもんな~」
「べ、別にそういうわけじゃ…」
そう否定しながらも”案外そうなのかもしれない…”なんて思ってしまう。
相手は誰もが羨むような王子で、秘密の逢瀬を繰り返しているようなものだ。多少なりとも夢中になっても無理はないだろう。
「……気に入らねぇ」
「なに嵐士、もしかして妬いてるの?」
ちょっと調子に乗ってニヤつきながらおちょくると、嵐士は視線だけこちらに向ける。
「…そうかも」
どこか上の空でそう言いながら、去っていく秋生先輩の後ろ姿を目で追っている。
自分でけしかけておきながら、嵐士の返答にはパンチ力があって、びっくりしすぎて言葉を失った。
「や、やだな~、冗談なんだからもっと反応してくれないと困るじゃん!」
気まずくなって無理矢理笑いながら、嵐士の背中を叩いた。
――あの日から嵐士がおかしい。
それはなんとなく、あの日も感じていたことだけど、まさか一週間経ってまでも変わらないだなんて思いもしなかった。
今までどこで誰と何してようが特別なにも言わなかった嵐士が、秋生先輩といる時だけはやたらと絡んでくるようになった気がする。
かくいうあたしは、ここ最近は先輩とご飯に行ったりバイトで忙しかったし、嵐士と過ごす時間は以前よりも明らかに減っていたけど、その間に何かあったのだろうか?
「嵐士もしかしてなんかあった? 一週間くらい前から変じゃん」
「別に。なんもないよ」
じゃあなんでこんなに言動がおかしいのだろう。さっぱりわからない。
「まあ、話したくないならいいけど。あたしこれからバイトだから、そろそろ帰るね!」
夏休みにしこたま遊ぶために、夏休み前にバイトを鬼のように入れていたあたしは、学校から直でバイト先に向かうために急ぎ足で学校を後にした。
だから、嵐士がどんな顔でこっちを見ているのかなんて、知る由もなかった。
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