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『嵐士また違う女と歩いてる』
その言葉に窓の外を覗いてみると、確かに嵐士の姿があった。
同じクラスになったのは高校三年になってからだったけど、それまでも噂話上だけで名前だけは一方的に知っていた。
いつも隣を連れ歩く女の子は違う上に所構わず腕組んで歩いているから、直接話すまではきっと"ろくでもない人"なんだろうなって、そう思ってた。
話すようになったのは"共通の友達"がいたからっていう、わりと単純な繋がりからだった。
『木綿子、大学どこ行くの?』
『ん~、家からもそんな遠くない場所がいいし、K大かな~』
『木綿子って地味に頭いいもんね』
高校三年の夏の少し前。進路の話に嵐士が食いついてきたのが始まり。
『え!鍋島さんK大なの? 俺も〜!』
この時はじめて嵐士が実はそこそこ頭いいって知った。
共通点が見つかるとそれから急速に仲良くなっていって、嵐士は話してみると話題に富んでいてすごく面白いやつなんだって知った。
同じ映画のシリーズが好きだとわかって一緒に映画観に行ったり、その当時すでに一人暮らししてた嵐士の家に遊びに行ったり、休日に図書館でいっしょに勉強したり、高校3年間の中で一番密度の濃い時間を過ごした。
『鍋島さんってすごいね』
『なにが?』
『だってあの嵐士と体の関係無しにつるんでるんでしょ?』
そういえば嵐士が悪名高い”ヤリ〇ン”だって噂があったけど、あれは本当だったのかとこの時知った。
でも、嵐士はあたしを部屋に招き入れても指一本触れてこないし、むしろ丁重にもてなす。
『木綿子は俺の唯一の女友達だもん』
人前ではあたしに肩を回して見せる嵐士は、二人の時は絶対に触れてこない。意外と紳士的なところもあるんだな、って思ってた。
『だから、それがすごいって話してんだよ。お前、女なら誰でも構わず抱くじゃん』
『そりゃ、求められたら応えないわけにいかないだろ? 据え膳食わぬは男の恥っていうやつだよ』
『それってつまり、木綿子から迫られたら抱くってこと?』
『ばーか。木綿子は特別なの!』
思えばこの時から少しずつ、周りの人からは「嵐士が唯一手を出さない女」っていう異名が付き始めたんだっけ。
この頃は受験ムードまっしぐらで、しばらくの間は嵐士も落ち着いてただけなんだけど『ヤリ○ン嵐士を手懐けてる』とか色々と噂されてたのを知っている。
『女として見られてないだけじゃない?』
誰かにそんなことを言われた気がしたけど、別にそれでいいと思った。
だって、体の関係なんて持とうものなら、きっと痛い目を見るのは自分だってわかってたし、そんなの抜きにいっしょに居られるのはすごく優越感があったんだから。
ましてや好きになんてなったら身を滅ぼすことになる。そんなの真っ平御免だ。
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