1056人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
翌朝は気分が最悪だった。
高校時代の夢を見たのは久しぶりだったし、なんだか夢の中の自分はすごく嫌な女だった。
「木綿今日どこか出かけるの?」
寝覚めの悪さを洗い流すように蛇口を捻ると、法被姿の母親がバタバタしながらあたしに声を掛けてきた。
「うん。出かける」
「じゃあ、晩御飯いらないのね?」
「うん」
「ちゃんと鍵持って出かけてね。お母さん、今日はお祭りの出店の手伝いで家にいないから」
――そういえばこの夏休みが始まるのと同時期に、毎年近所の自治体が開催しているお祭りがあるんだっけ。
母は毎年出店の手伝いをして、その後は自治会館で飲み明かすっていうのが恒例行事。今日はその一年に一度の楽しみの日なのだ。
朝から気合が入っているのはそのせいか、と妙に納得する。
ところで、母親って”今は放っといてくれ”って時に限って、空気を読まずにやたらと声をかけてくるのだろうか…。
「あ~もうわかったから。自分の準備しなよ」
お祭り準備は朝早くから行われているから、そう促すと「やだもうこんな時間!?」と慌てた様子で洗面所を出ていった。
今日は秋生先輩と映画デートの日だ。
おしゃれして、少しは可愛いって思って貰えるようにしなくては。
そう思ってクローゼットを開けて洋服を選び始めると、なんだかどれもしっくり来なくて、気づけば部屋の中が夏服でいっぱいになっていく。
――ちゃんとしたデートなんていつぶりだろう?
ふと、自分が今までどんな服を着ていたか、とか余計なことまで思い返す。
前もって決めておけばいいものを、バイトに明け暮れていたおかげですっかり疲れてしまって、当日の朝に焦り始める。
あまりに狙いすぎても引かれるかもしれないし…、かといってあまりにもカジュアルだと”やる気ないな”って思われそうだし。
ああだこうだと考えているうちに、すっかり時間だけが過ぎていく。
――ああ、もうこれでいっか。
半ばやけくそで選んだ服に袖を通した頃には、もう待ち合わせまでギリギリの時間になっていた。
小さめのバッグにお財布とハンカチなど、最低限のものを詰め込んで、あたしはそそくさと家を出た。
――あ、鍵。
家を出る頃にはあれだけ母に言われていた鍵を持ってくるのを忘れていたけど、もう戻っている時間もなくて、あたしはそのまま駅に向かった。
最初のコメントを投稿しよう!