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最寄りの駅から5駅離れた場所に降り立つと、改札口へと少し速足で向かった。
誤算だった。駅前はお祭りのせいで人がごった返していて、思いの他駅のホームまで向かうのに時間が掛かってしまった。
――待ち合わせにギリギリで来る女とか印象悪すぎる。
加えて夏真っ盛りだ。少し動くだけで汗が滲むし最悪だ。
そんなことばかり考えながら、とにかく人をかき分けて改札から出ると、目の前に秋生先輩を見つけた。
「先輩、すみません。遅くなっちゃって」
「ううん。僕も今来たところだから」
秋生先輩は涼しい顔をして、にっこりと微笑む。
それに比べてあたしは額に汗を滲ませていて、我ながらお世辞にも”かわいい”とは思えない。
「今日も暑いね」
「もう夏ですね~」
そんな他愛もない会話をして、映画の時間までカフェでまったり過ごすことにした。
「お腹空いてる?」
「あ、いえ。あたしは飲み物だけあれば十分です」
「おっけ、じゃあ買ってくるから席で待ってて」
秋生先輩はそう言ってレジに向かう。
こういう”特別扱い”みたいなのって、なんだかムズムズする。
そんな風に思いながら先輩に背中を見ていると、周りの女の子がみんな秋生先輩を見たり、振り向いたりしているのが見えた。
――やっぱ、学校の外でも秋生先輩って王子様みたいに見えるんだろうな。
背もすらっとしていて高いし、それに加えてお洒落だし、あたしにはやっぱりもったいないくらいの男だな…、と思う。
あたしはよくも悪くも普通で、こうして外で一緒に歩いていて本当に釣り合っているのか少し不安になって、さっと身なりを整える。
普段はラフな格好ばっかりしているせいか、ワンピースとかちょっと背伸びしすぎたかもしれない…と不安になってきた。
やっぱ身の丈に合ったデニムとか履いてくればよかった。
そんなことを考えていると、秋生先輩が席に戻ってきた。
「お待たせ。なんか美味しそうなかき氷売ってたから買ってきちゃった」
いっしょに食べよう、といって微笑む。
お盆の上にはつやつやと輝くフルーツ盛沢山で映えるかき氷に、あたしは思わず”おいしそう~”と目を輝かせながらそれを見つめた。
「さっき言いそびれちゃったんだけど、今日はいつもと違う雰囲気で可愛いね」
ちょっと照れながらそう褒められると、こちらまで照れてしまう。
さっきまで気にしていたことだったから、こういうのはくすぐったい。
――嵐士だったら”お前今日どうした?”とか、平気で言いそうだもんな。
…とそこまで考えてぐっと息を飲んだ。
無意識に先輩と嵐士を比べている自分がいることに気づいて、ちょっとそれはどうなんだ?と自問自答する。
これはあれだ。きっと今日見たあの夢のせいだ。
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