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【大丈夫? 薬とかあるの?】
電車を待つ間、嵐士にLINEを入れてみたけど、今のところ返事はない。
既読にもなってないから、もしかしたら寝込んでいるのだろうか。
嵐士がSOSのLINEを送ってきていたのは、あたしと先輩がお茶をしている時間帯で、あれから1時間弱ほど経過していた。
嵐士の最寄駅の目の前にはたしか大きな薬局がある。
ーーとりあえず、そこで必要そうなものを見繕って直に行くしかないか…。
そんなことを黙々と考えていると、電車がホームに到着した。
電車はいつもよりも少し混んでいて、世間的にも夏休みが始まったことが伺える。
地元のお祭りに行くのだろうか。浴衣を着た中高生や、同い年くらいのカップルで電車の中をごった返している。
――先輩に悪いことしちゃったな。
せっかく誘ってくれたのに、集合して映画に行く寸前でドタキャンだなんて、時間と労力を無駄にさせてしまった気がして申し訳なくなる。
しかも、これから行くのは他の男の看病だなんて我ながら最低な女だ。
でも、万が一のことがあって後悔する方が後味が悪いし、急病なのには変わりないし…、と一通りの言い訳をして自分を無理やり納得させる。
電車の外を流れる景色を見つめていると、少しずつ見知った土地に差し掛かっている。2つ先の駅が嵐士が住む街だ。
自分の地元の駅でいくらか人が下車していくのを見送り、再び電車が動き始める。
通知が来て開いてみると、先輩から【お母さん、お大事にね】とLINEが来ていた。
その文字を見て、また心に濁った泥のようなものが流れ込んでくるようで気が重くなる。
先輩はお父さんにチケットを貰ったと言っていたけど、本当は自分で用意してくれたんだろうな、ってそんな気がしていた。
きっとあたしに気を遣わせないようついた優しい嘘だったんだろう。先輩はそういう人だ。
しかも、今回のシリーズ最新作は続編だったから予習までしてくれていたのに。
――この埋め合わせは絶対にしないと。
そう心に固く決めて【ありがとうございます】とLINEを返した。
そうしているうちに、嵐士の家の最寄り駅に到着し、あたしは久しぶりにその駅に降り立った。
高校の時は週に3回くらい通っていた駅前に、少し懐かしさを感じた。
とりあえず、薬局に行って適当に必要そうなものを買ってから、嵐士の家に向かうことにした。
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