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駅から10分の白いコンクリート造りのマンション前。
このマンションの一室が嵐士の根城だ。
部屋の前まで赴き、インターホンを押したけれど、家主は出てこない。
あれからも嵐士から連絡はなくて今のところ音信不通だ。
寝ているなら申し訳ないのだけど、合鍵を持っているわけではないから、とりあえず電話を入れてみることにした。
出なかったら荷物を置いて帰ろう。
そう思っていると、しばらくしてから電話がつながった。
【……はい】
声がガサガサだ。これは本格的に夏風邪をひいているのだな、と容易に想像がつく。喋るのもつらそうな声色だ。
「嵐士、大丈夫?」
【…木綿子?】
誰からの電話なのか見ずに出たのだろう、嵐士はあたしの声で誰なのかを判別したらしい。
「今部屋の前いるんだけど、ちょっと鍵開けられる?」
【ん…】
短く返事をした後、しばらく待っていると5分後くらいに玄関の施錠が解かれる。きっと動くのもやっとなくらいにキツイのだろう。
ドアが開くと顔を真っ赤にした嵐士が姿を現した。
「……ホントに木綿子だ」
まだ夢うつつなのか、嵐士が変なことを言っている。
「これ、薬とか食べられそうなもの買って来たから」
それに構わず、さっき買って来た経口補水液やスポーツドリンク、風邪薬やらゼリーなどの入った袋を彼に渡そうとした時だった。
急に嵐士がこちらに向かって倒れ込んできた。
「ちょ…嵐士、大丈夫!?」
「……むり、ほんと…死にそ…」
咄嗟に嵐士の体を支えると、耳元でぜぇぜぇと苦しそうに息を切らしている。
病院に行こうにも、このフラフラしている状態だと逆に危険な気がして、とりあえず支えながらどうにか玄関先に踏み入る。
嵐士の体に触れている部分がすごく熱くて高熱出ていることがすぐにわかった。
「ベッドまで歩ける?」
いったんそう声を掛けて肩を抱きながら歩行の補助をしてみるも、体にあまり力が入っていないようでずっしりと体重を掛けられている。
とにかく必死で引きずるようにして、嵐士を寝室まで運んだ。
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