【Hook】 歪には熱が宿る

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【Hook】 歪には熱が宿る

 一瞬、脳が処理不良を起こして停止する。 ーーなに…言ってるの?  さすがに、この状態でその冗談はキツイ。  そう思っているのだけど、うまく言葉が出てこない。 「冗談、きつい…って」  やっとの思いでそう口に出してみるものの、あたしだってそこまでウブじゃない。嵐士の瞳を見ればそれが”冗談”じゃないってわかる。 ――なんで? ――どうして?  今起きている事態が理解できなくて、情けなく狼狽えることしかできない。 「……まだ冗談だと思ってんの?」  静かにあたしのこと見下ろす嵐士は、ひとつ、またひとつと丁寧にボタンを外していく。その嵐士の言動が”本気”だと物語っている。 ――嵐士が望んでるのは”女友達”の鍋島木綿子(あたし)だったじゃない。  滅多に引かない風邪の熱に浮かされて、とんでもないことをしようとしているのではないか?と、自分に迫る危機にまだ往生際の悪い思考が巡る。 「嵐士、ちょっと待って…!」  すべてが曝け出される前に、どうにか体を捩りうつ伏せになる。  言葉での制止なんてきっとなんの意味もなさないとわかり切っていても、今のあたしに出来ることはこれしかない。 「木綿子は、なんで秋生先輩が俺に宣戦布告してきたか、本当にわかんないの?」  耳元に降りて来た声に、肩がびくっと跳ねる。  すぐそばに嵐士の気配がある。いつもなら何も感じないはずなのに、現状が違うだけで心臓が勝手に反応してしまう。 「そ…んなの、嵐士とつるんでばかりだから…」  先輩は”これ以上他の男とじゃれ合ってる姿を見るのがつらい”と言っていた。ていうか、なんでとか考えたらそれしか思いつかない。  実際に先輩からそう言われたのだから。 「……本当にそれだけだと思ってる?」 「…っ!」  首元を啄むようにキスを落とされると、くすぐったいようなゾクゾクとした感覚が身体を巡っていく。  散々身体を捩ったせいで捲りあがった裾から、するすると肌が晒されていくのに気づき、手を伸ばそうとしてもしっかり腕を纏めあげられていて抵抗が出来ない。  嵐士の指先がくすぐるようにゆっくりと身体をなぞる。  それだけで口から零れる吐息が熱くなっていくのを感じながら、頭の中で繰り返されるのは”なんで?”の三文字で、頭と身体がまったく別の生き物のようになっていく。 「こっち向いて?」 「…や」 ――女の顔する木綿子は見たくない。  嵐士はたしかにそう言っていた。それはつい最近の事だ。意地でも顔を見られたくなくて頑なに拒否しても、肩を掴まれて転がされると、簡単に身体は彼の方に向いてしまう。  決して大きいわけではないけれど、女だと主張する部分を見せたくなくて、腕を胸の前に下ろそうとしても、嵐士はそれを許さないみたいに手で軽く押さえつける。そうされると抵抗も空しくすべて曝け出す結果になってしまった。 「…木綿子は、にこんな綺麗な下着つけてるんだね」 「ち…がっ!」  特にを考えて選んだわけではないのだけど、先輩を引き合いに出されるとまるで狙っていたと思われているようで、恥ずかしくて涙が滲む。 「男ってこういう純白で清楚なの、好きだもんね」  あざ笑うみたいにそう口にしながら、ゆっくりと下着の中に指を潜らせる。  言葉には棘があるのに、それとは裏腹に触れる指先はやけに優しく肌を撫でる。まるで壊れ物みたいに触れるから、身体は勘違いしてどんどん高められていく。
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