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「嵐士。あたし先に行くね」
どう考えても邪魔者だし必修授業に遅れたくはない。一言伝えて教室に向かおうとしたその時だった。
嵐士に腕を掴まれ引き寄せられたと同時に、慣れた手つきであたしの口を塞いだ。
「俺、実はこの子のことが好きなんだ…」
「んんっ!?」
おいおいブラザー、それは無いぜ。
突然なにを言い始めるのかと思ったら、またこいつあたしのことを巻き込みやがった!!!!
口を塞がれた不穏な状態で、ふいに美女と目があってしまう。
首を振って否定したいのだけど、あまりに力強く腕を回すものだからそれすら叶わない。
「……この子が?」
「うん。キミがだめなんじゃなくて、俺がこの子じゃなきゃダメなんだ…。気持ちは嬉しいんだけど、ごめんね?」
「……わかった、応援してるね」
いや、待て待て待てっ!!!!?
そんなあっさり信じるか!?普通!!
100%嘘っぱちだぞ!?
そこだけ物分りのいい女は嫌いだよ!!!
言いたいことは山ほどあるのに、嵐士に口を塞がれてなんの反論も出来ない。
美女は律儀にあたしに謎のお辞儀をしてから、悲しそうに微笑んで走り去ってしまった。
まるで嵐のような告白劇はこうして幕を閉じ、あたしの封じられていた口も解放された。
「嵐士ぃぃぃ!!あたしのこと巻き込むのやめろって、毎回言ってるじゃん!!」
「あはは〜ごめんって。いつもこういう時に隣にいるの木綿子だからさ~」
まったく悪びれていない顔で笑う嵐士に軽く殺意が湧く。
あたしはどうにも運が悪いようで、こうした場面に出くわしてしまう。
嵐士とは高3からの仲だけど、高校の時はここまで酷くはなかったし「唯一、嵐士が手を出さない女」なんていう異名を持つほどに認知されていたから、あんな土壇場で嘘ついてもすぐにバレていたのに。
大学に入学してからは、それを知っている人が少ないから、こうして厄介事に巻き込まれて望まぬ敵を作っている…というか作られている。
おかげで女友達はおろか男友達すら満足に出来ず、1年を過ごして今に至る。
「少しでもごめんって思ってるんだったら、今後巻き込むのやめていだけます? あたしだって煌びやかなキャンパスライフを楽しみたいんですけど」
「え~、唯一の女友達のよしみで助けてよ〜」
「は? そろそろ誰かにいっぺん刺されろよ」
「その時は看病してね?」
学科も必修も同じだから、いっしょにいることが多いのだけど、それがあたしの中では結構問題だったりする。
「嵐士といっしょに居たら、あたしこの先絶対彼氏できないんだけど」
「それは木綿子がモテないだけでしょ?」
ーーとびきりの笑顔でディスってくるんですけど、なんなんですかね? 腹が立つ。
嵐士は女の子の扱いがうまいけど、それがあたしに発揮されることはない。取り繕う必要がないのはそれこそ「唯一の女友達」だからだろう。
「逆にあんたはどうしようもないクズなのにモテすぎるのよ」
世の中、探せば誠実で大事にしてくれるイイ男なんて星の数ほどいるはずなのに、どういうわけかみんなコイツの毒牙に簡単に掛かってしまう。
しかも、決まってみんな美女で可愛らしい子たちばかりだ。神様ってやつは不平等だ。
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