【last Hook】 言葉にしないとわからないこと

3/6
前へ
/47ページ
次へ
***    結局、前日の夜は嵐士の部屋に泊まり、花火大会当日を迎えていた。  結局あたしはダメな自分のままで、「それ」を忘れるみたいに抱き合ったばかりの身体で、旧友との再会を迎えるのは、少し複雑な気分だった。 「よう、久しぶり~」  集合場所に向かうと、先に着いていた吾妻がこちらに手を上げる。  こうして三人で集まると、高校時代に戻ったみたいで、なんだか少しホッとした。 「吾妻も久しぶり~。相変わらずド金髪なんだな」 「トレードマークと言っても過言ではないからな」  相変わらず、吾妻は短髪を綺麗な金色に染め上げていて、高校の時と変わらない風貌をしている。 「そういえば他のやつらは?」  辺りを見回してみても、吾妻ひとりしか見当たらずそう尋ねると、「なんか電車遅れてるみたいで花火までには着くって連絡来てた」と携帯を見ながら返事をした。 「てか木綿子、お前なんで浴衣じゃないんだよ」  私服のあたしに向かって文句を言いながらも笑う。  変に悟られたくなくて、あたしは「周りにいっぱい浴衣美人いるじゃん」と適当にあしらった。 「嵐士も見たかったよな? 木綿子の浴衣姿」  何も知らない吾妻がそう絡むと、「浴衣だったら水着の方が見たい」と返し「情緒がねぇな」と呆れられていた。 「花火まで時間あるし、どっかその辺入って時間潰す?」  河川敷には縁日がいくつか出店していて、そのどのお店にも浴衣姿の女の子や、小学生の団体などで溢れかえっている。この中を散策するには少し労力が足りないあたしたちは、吾妻の提案に乗って、駅前のカフェに行くことにした。  駅前も花火大会に向かう群衆で賑わっていて、まっすぐ歩けない。 「あれ? 木綿子ちゃんだ」  前から団体が向かって来たかと思うと、声を掛けられ、声の方向に振り返るとそこには秋生先輩が立っていた。 「先輩も来てたんですね」 「うん。地元のメンツと。木綿子ちゃんも来てたんだ」  はっとした時には遅く、先輩の視線は嵐士と吾妻の姿を捉えていた。 「龍ケ谷くんも久しぶり」  先輩が変わらず爽やかな笑顔で声を掛けると、嵐士は「ちっす」と短く返事をしてから、そっぽを向いた。 「なに。知り合い?」 「あ~、大学の先輩」 「あ、先輩っすか! いつも二人がお世話になってます」  吾妻はまるで保護者のような挨拶をして、屈託のない笑顔を浮かべている。  何も知らないから無理もないのだけど、あたしにとってこの環境はとてつもなく居心地の悪いものだった。 「秋生、置いてくぞ~」  秋生先輩を呼ぶに「今行く」と返事をしてから、先輩があたしたちに振り返る。 「じゃ、また学校でね」  簡単に声を掛けてから、先輩は群衆の中に姿を消した。 「木綿子、あの先輩の事好きそう~」 「ちょ、吾妻やめてよ」  吾妻はあたしの好み知ってるから、余計なことを口走る。 「てか、あんなさわやかイケメン傍にいるとか、お前って高校の時から本当に男運いいよな」 「男運、なのかなぁ」 「だって中身はどうあれ、嵐士もイケメンじゃん。さぞ素敵なキャンパスライフ送ってるんだろうな~」  先輩の背中を目で追いながら、吾妻は謎に深く頷いた。 「一応は余計だわ」 「え。だって中身はドクズじゃん。お前」  嵐士をなじる吾妻は真剣な表情を浮かべながら肩を抱くと、それを鬱陶しがって払いのける。 「冗談じゃ~ん! そんな怒るなって」 「怒ってねぇよ。それより早くどっか店入ろうぜ。クソ熱くて溶けそう」  そう言って嵐士は歩を進めながら、そっとあたしの手を掴む。 「おい~、オレの手も掴めよ~」 「男と手つなぐ趣味ないんだけど」  それに気づいても、吾妻は特に気に留める様子もなく、ブーブーと文句を言っていた。  掴まれた腕が熱い。  西日が差し始めた道の中、あたしたちは駅前まで続く道を歩いた。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1099人が本棚に入れています
本棚に追加