1099人が本棚に入れています
本棚に追加
***
結局、前日の夜は嵐士の部屋に泊まり、花火大会当日を迎えていた。
結局あたしはダメな自分のままで、「それ」を忘れるみたいに抱き合ったばかりの身体で、旧友との再会を迎えるのは、少し複雑な気分だった。
「よう、久しぶり~」
集合場所に向かうと、先に着いていた吾妻がこちらに手を上げる。
こうして三人で集まると、高校時代に戻ったみたいで、なんだか少しホッとした。
「吾妻も久しぶり~。相変わらずド金髪なんだな」
「トレードマークと言っても過言ではないからな」
相変わらず、吾妻は短髪を綺麗な金色に染め上げていて、高校の時と変わらない風貌をしている。
「そういえば他のやつらは?」
辺りを見回してみても、吾妻ひとりしか見当たらずそう尋ねると、「なんか電車遅れてるみたいで花火までには着くって連絡来てた」と携帯を見ながら返事をした。
「てか木綿子、お前なんで浴衣じゃないんだよ」
私服のあたしに向かって文句を言いながらも笑う。
変に悟られたくなくて、あたしは「周りにいっぱい浴衣美人いるじゃん」と適当にあしらった。
「嵐士も見たかったよな? 木綿子の浴衣姿」
何も知らない吾妻がそう絡むと、「浴衣だったら水着の方が見たい」と返し「情緒がねぇな」と呆れられていた。
「花火まで時間あるし、どっかその辺入って時間潰す?」
河川敷には縁日がいくつか出店していて、そのどのお店にも浴衣姿の女の子や、小学生の団体などで溢れかえっている。この中を散策するには少し労力が足りないあたしたちは、吾妻の提案に乗って、駅前のカフェに行くことにした。
駅前も花火大会に向かう群衆で賑わっていて、まっすぐ歩けない。
「あれ? 木綿子ちゃんだ」
前から団体が向かって来たかと思うと、声を掛けられ、声の方向に振り返るとそこには秋生先輩が立っていた。
「先輩も来てたんですね」
「うん。地元のメンツと。木綿子ちゃんも来てたんだ」
はっとした時には遅く、先輩の視線は嵐士と吾妻の姿を捉えていた。
「龍ケ谷くんも久しぶり」
先輩が変わらず爽やかな笑顔で声を掛けると、嵐士は「ちっす」と短く返事をしてから、そっぽを向いた。
「なに。知り合い?」
「あ~、大学の先輩」
「あ、先輩っすか! いつも二人がお世話になってます」
吾妻はまるで保護者のような挨拶をして、屈託のない笑顔を浮かべている。
何も知らないから無理もないのだけど、あたしにとってこの環境はとてつもなく居心地の悪いものだった。
「秋生、置いてくぞ~」
秋生先輩を呼ぶに「今行く」と返事をしてから、先輩があたしたちに振り返る。
「じゃ、また学校でね」
簡単に声を掛けてから、先輩は群衆の中に姿を消した。
「木綿子、あの先輩の事好きそう~」
「ちょ、吾妻やめてよ」
吾妻はあたしの好み知ってるから、余計なことを口走る。
「てか、あんなさわやかイケメン傍にいるとか、お前って高校の時から本当に男運いいよな」
「男運、なのかなぁ」
「だって中身はどうあれ、嵐士も一応イケメンじゃん。さぞ素敵なキャンパスライフ送ってるんだろうな~」
先輩の背中を目で追いながら、吾妻は謎に深く頷いた。
「一応は余計だわ」
「え。だって中身はドクズじゃん。お前」
嵐士をなじる吾妻は真剣な表情を浮かべながら肩を抱くと、それを鬱陶しがって払いのける。
「冗談じゃ~ん! そんな怒るなって」
「怒ってねぇよ。それより早くどっか店入ろうぜ。クソ熱くて溶けそう」
そう言って嵐士は歩を進めながら、そっとあたしの手を掴む。
「おい~、オレの手も掴めよ~」
「男と手つなぐ趣味ないんだけど」
それに気づいても、吾妻は特に気に留める様子もなく、ブーブーと文句を言っていた。
掴まれた腕が熱い。
西日が差し始めた道の中、あたしたちは駅前まで続く道を歩いた。
最初のコメントを投稿しよう!