【last Hook】 言葉にしないとわからないこと

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 人並みを逆流するように歩く嵐士に手を引かれ、ぐんぐんと人の居ない場所に抜けていく。  肌を透けて赤く見えるほどに強く滲んだオレンジ色が、やけに鮮明に映る後ろ姿を見つめながらも、さっき吾妻が言っていた言葉を思い出す。 ――本命落としたいっていうから、千葉の絶景スポット教えてやったんだろ。  その場所に連れていかれたのはあたしだ。  でも、どう考えたっておかしい。だって、あの時のあたしたちは紛れもなく”友達”だったし、そんな雰囲気ひとつもなかったはずなのに。  でも、思い返してみても、あの日からあたしたちは少しずつ変わってしまったようにも思える。  ありえない。  頭の中ではそう思うのに、断言ができない。 「嵐士……、あたしのこと、好き、なの?」  蝉時雨が燦燦と降り注ぐ田舎道の途中。雑踏の中にふわりと消えるほどの声が漏れた。  嵐士の耳には、このどうしようもない自惚れた言葉は届かないだろう。そう思っていたのだけど、さっきまで流れていた景色がピタリと止まる。 「~~~さすがに、こんなバレ方はダサすぎるってぇぇ!!」  両手で顔を覆いながらしゃがみ込む嵐士は、耳から首の後ろまで赤くなっているのが見えた。 「……てか、あれから木綿子としかないんだから気づけよ、鈍感バカ」  雑に前髪をかき上げながら、嵐士は独り言のように呟く。 「い、言われなきゃわかるわけないじゃん!!」  今まで友達として傍にいたのだ。  言われなきゃわからない。  だって嵐士はずっと女の子と遊んでたのだから。 「……普通に告っても信じないだろ。これまでだって、木綿子だけは特別だって、どんなに伝えても俺のこと男として見てこなかったのに」 「そ…れは、そう…だけど」 「それに、正攻法でいくら頑張っても、他の男と同じ土俵に立てないってことくらいわかってた」  オレンジ色が紫に溶けていく。  その綺麗な景色の中で、嵐士の悲しそうな顔だけが妙に鮮明に見えている。 「……無理やりにでも男だって意識させられるなら、手段なんてなんでもよかったんだ」  いつものちゃらんぽらんで、飄々とした嵐士とは違う。  これまで見たこともない表情に、ドクンと血潮が勢いよく流れていくのを感じる。  そんな苦しそうな顔する嵐士、見たことない。 「いくら抱いても、全然伝わってる感じしなかったから、せめていつも通りに接しようってしてたのに……。吾妻に大暴露されて、やっと伝わるとか、まじダサすぎ……」 「つ、伝わるわけないじゃん……」  好きって言葉もなくて、ただセックスするだけの仲なんだって、そう思ってたのに。蓋を開けてみたら、こんな簡単なことだなんて、思うわけがない。 「だって……だって、嵐士は好きだとも言わないし、エッチしてる時だって、キスのひとつもしてこなかったじゃん!」  何言ってるんだろう、ってどこか冷静な自分がいて。でも、動揺とかいろんな感情で頭の中は混乱しているんだ。 「それはだって、自分の舐められた後にキスとか嫌だろ?」 「な、め…!? そ、そういう話じゃ……なっ!」  ざくざくと、砂利を踏みしめる音が近づいてきて、ぐっと身体を引かれたと思った瞬間、ドンッと轟音が鳴り渡った。  歓声が遠くで聞こえる中、重なった唇が少し離れて、今度は少し深めに塞がれる。 「キスくらいで気持ち伝わるんだったら、いくらでもしてやる……」  首の後ろに腕を回され、固定すると息が続かないくらいに深くキスをされて、時折、角度を変えながら熱い舌が深く絡まり合う。 「他の誰かに奪われるくらいなら、体だけでも俺のこと覚えさせようと思った。……でも、それだけじゃ全然足りない……木綿子の全部が欲しい」  道行く人が花火を見上げる中、キスの雨はやまない。  あまりに熱くて、思わず足から力が抜けると、嵐士の腕があたしの身体を支えるように回された。 「       」  花火の音と同時に耳元で囁くその言葉に、思わず目頭が熱くなる。 ――あぁ、なんだ。ずっと求めてたものは一緒だったんだ。  触れた身体の一部が溶けそうなほど熱い。  ずっと欲しかった言葉は思っていた以上に心が震えた。
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