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「そこで、侯爵がこれでは不公平だと、竜王様に異論を唱えました。父親が水晶の守り人で、息子が竜王の補佐では、妃選びに不正が行われてもおかしくないと言ったのです」
「アビゲイル様のためでしょうか?」
リディアさんは私の言葉に、しばし悩んだあと、首を横に振った。
「……それもあるかとは思いますが、侯爵が強く反対することで、発言を取り消すと思っていたようです。しかし竜王様はシリル様を補佐に選ぶことを撤回せず、シリル様のお父様であるルシアン様が職を辞し、そしてリプソン侯爵は王宮から去りました」
「そんなことがあったんですね……」
じゃあこの国で権力を失ったリプソン侯爵は、アビゲイル様が選ばれてほしいと切望しているんだろうな。それに妾になったと噂された私が、竜王様の近くにいては、さぞ目障りなはず。
それにあの寒気のする、粘ついた視線。少しでも私が弱気になったら、くじけてしまいそうな気持ち悪さがあった。
(負けちゃダメ! しっかりしなきゃ!)
私はカツンと大きな靴音を鳴らし、自分の部屋の扉を開けた。
◇
「明日のお妃様選び、どうしよう……」
夜ベッドに入り、お腹をさすりながら、今日一日ずっと気になっていたことを呟いた。あの話を聞いてからというもの、私の頭の中は明日の「お妃様選定」のことでいっぱいだ。
しかも騎士団や王宮でもその話題でもちきりで、どこにいっても私を悩ませていた。
(どのタイミングで、竜王様に伝えればいいんだろう……)
選定は明日の朝だと言ってたから、その前に竜王様に会えるかリディアさんに聞いたけど、選定の儀が終わるまでは時間が取れないと断られてしまった。
もう女性たちの招待は始まってるし、騎士団も警備の準備をしている。どちらにしてもあのアビゲイル様のお父さんが、中止にするのを許さないだろう。
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