10 夜の訪問者

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 根拠はまったくなさそうだけど、竜王様が言うと、本当にそうなりそうな気になってくるから不思議だ。そんな私の気持ちが伝わったのか、満足そうに私のまわりをクルクル飛んでいる。 (ふふ。やっぱり竜の姿はかわいくて癒やされる!)  ようやく張り詰めていた気持ちがラクになって、私はぬるくなってしまったお茶を一口飲んだ。 『ああ、そのお茶、気に入ったんだな』 「はい、このリュディカというお茶、大好きです!」 『ふっ……そうか。それなら良かった。今日はいろいろあって、もう眠いだろう。ゆっくりするといい』  そう言うと、竜王様は窓に向かって飛び始めた。 「はい! じゃあ竜王様、おやすみなさい!」 『…………だ』 「え? うわっ」  窓を開けたのだろう。突風が入ってきて、自分の髪の毛が顔にかかった。それに竜王様が何か言ったみたいだけど、風の音で聞き取れない。 「リュディカだ」 「え? お茶がどうかしましたか?」  ボサボサになった髪をかきあげ、顔をあげる。しかしそこに、さっきまで見ていた小さな竜はいない。  目の前に立っていたのは、人間の姿に戻った竜王様だった。
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