28 竜王様の過去

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「ああ、俺は二十年、自分の膨大な力をコントロールできず、部屋に一人きりで過ごしていた。あんな生活を自分の子どもにさせたい親などいないだろう?」  今の竜王様は、小さな子どもの竜だ。しかしその姿がよけいに、ひとりぼっちで泣き叫んでいた頃の姿に重なり、気づいた時には私は竜王様をぎゅっと抱きしめていた。 「リコ……」 「次に竜王様のような力のある子が生まれても、私の血でなんとかできます! 話だってできます! だからもう淋しい子は生まれません!」  私の瞳からボロボロとあふれる涙が、竜王様の頭にあたって弾ける。もう、私が竜王様のお妃だって言ってしまおう。私なら安心させられるって、伝えたい。 「あの、竜王様……!」  私が意を決して告白しようと、抱きしめる腕を緩めた時。ポンと竜王様の姿が変わる音がした。そのまま流れるような動作でベッドに押し倒され、私は何が起こったのかわからず、目をパチパチとさせていた。 「リコ、二人の時は、リュディカと呼べと言っただろう?」 「えっ! 竜王様、姿が、に、人間に……」 「ああ、戻したんだ。それが、どうした? ほら、リュディカと呼ぶって約束しただろう?」 「し、してないですよ! あれは竜王様が勝手に!」  いきなりどうしたんだろう? さっきまではあんなに暗かったのに、何かのスイッチが入ったように、一気に竜王様の雰囲気が変わってしまった。  蜂蜜色の瞳はとろけるように艶を帯び、私の耳に甘い吐息を吹きかける。上品な薄い唇からは、少し強引な言葉。それでいて私の髪をさわる手は優しくて、少しずつ私たちの唇が近づいていく。 (こ、これ、からかってるんだよね? もう! このタイプのは苦手なんだってー!)
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