505人が本棚に入れています
本棚に追加
29 お妃選定の儀
「おお! ついに明日、竜王様のお妃様が決まるのか!」
「楽しみだわ! おめでとうございます! 竜王様!」
「おめでとうございます!」
リプソン侯爵が「お妃様選定の儀を執り行う」と宣言したことで、その場が一気にお祭りムードになっていく。しかし当の本人の竜王様は驚いた様子もなく、シリルさんに問いかけた。
「事前に竜王の卵を体に宿したという、報告はあったか?」
「……残念ながら、まだございません」
「わかった。では令嬢や王宮の成人女性に通達を出せ。心当たりのあるものなら、貴族でなくてもかまわん」
するとその言葉を聞いたリプソン侯爵が、あわてて竜王様に駆け寄った。
「竜王様、そのような戯言はお止めください。代々、妃に選ばれる者は高位貴族だけです。人数を集めるだけ、こちらの仕事が増えてしまいますよ」
まるで聞き分けのない子どもをなだめるような侯爵の話し方に、鳥肌が立ちそうな気持ちになる。しかし竜王様は眉一つ動かさず、侯爵をじっと見ていた。
「前例がないからといって、今回も同じだとはわからないだろう。そうだ、リコ。おまえも明日、選定の儀を見に来るか?」
「えっ! わ、私ですか!」
突然竜王様が私のほうを振り返り、周囲の注目が一気に私に集まった。さっきまで竜王様に媚びるように笑っていたリプソン侯爵は、私のことをじっと睨みつけ鼻で笑う。
「竜王様! お戯れが過ぎます! いくら迷い人様とはいえ、選定の儀は神聖なもの。それに貴族令嬢たちも緊張して選定に挑むのです。気軽に遊びに誘うようなこと、してはなりません」
そう言うと、リプソン侯爵は私の前にひざまずいた。
「迷い人様、初めてお目にかかります。わたくし、リプソンと申します。先日は娘のアビゲイルと親しくしていただけたようで、感謝申し上げます」
最初のコメントを投稿しよう!