505人が本棚に入れています
本棚に追加
「ああ、そうだ! 儀式をお見せすることはできませんが、それを行う水晶の部屋なら私がご案内いたしましょう。お妃様が決定したあとでしたら、乳母として挨拶もできますし、ね?」
「あの、私、クルルの様子を見てきますね!」
もうこのピリピリした雰囲気に耐えられない。話の途中で切り上げるなんてものすごく無作法ではあるけれど、私の足は勝手にヒューゴくんのもとに走り始めた。さっきまで竜の保育園のことで幸せいっぱいだったのに、今はそれさえも考えるのがつらくなる。
「リコ! 私も行きます」
「リディアさん」
後ろを振り向くと、リディアさんが心配そうに駆け寄ってきていた。
「ごめんなさい! 私ったら、勝手に飛び出しちゃって」
「いいえ。むしろこちらの説明不足でした。竜王様とリプソン侯爵の関係には、わだかまりが残っているんです。ですからリコにもあのような態度を」
「……過去になにか、あったのですか?」
私は周囲に誰もいないことを確かめると、小声で話しかけた。
「はい。竜王様が二十歳で国王に就任された時、補佐として選んだのはシリル様でした。その選択に周囲の者は驚き、リプソン侯爵は激しく反対したのです」
リディアさんは私を竜舎ではなく、王族専用の裏の通路に案内し始めた。私が部屋に戻りたがっているのを、わかっているみたいだ。
「本来ならシリル様は、水晶の守り人と呼ばれる番人の後継者です。竜王様の補佐は代々、リプソン侯爵家から選ばれていました。侯爵も自分か息子が選ばれるだろうと、疑いもしていなかったはずです」
少し湿った裏通路で過去に起こった出来事を聞いていると、少し気持ちが重くなってくる。私はそんな気持ちを振り払うように、カツカツと靴音を力強く鳴らしていた。
最初のコメントを投稿しよう!